おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

コイズミ劇場  (第1086回)

 真面目なことを書き過ぎて疲れて来たので、おバカなテーマに戻る。漫画でも映画でも、せっかくの初登場場面において、小泉響子はなぜ後ずさりながら教室に尻から入るのか。コソコソする事情は分かる。悪魔系バンドの追っかけで、本日も遅刻。

 しかし、前向きに忍び込んだ方が、速いに決まっているではないか。この態勢にメリットがあるとすれば、万一、先生に見つかったときに、廊下に逃げ出すためには都合が良い。だが、そうしたら更に悪影響が及ぶのも分かっているはずだ。貴重な道化師キャラクターなので、登場方法にも一工夫こらしたのだろうか。


 先日テニアン島カニを追いかけていたときに、このシーンを思い出した。なぜ、カニは横に歩くのか。もっとも、彼らにとっては、あれが「真っすぐ」なのかもしれないが、人間の常識でいえば、両目が並んでいる方向こそが前である。

 陸上のカニにとっての恐怖は、上から来る鳥類などの捕食者であろう。鳥や四つ足は、基本的に前にしか進まない。しからば、横に逃げると追いかける方は大変だ。さらにカニ類は、体が平べったくて、岩の隙間などに、平気で逃げ込む。






 



 写真は、去年(2016年)の6月4日に真鶴半島の磯辺で撮影したものです。ちょっと見づらいが、上がカニさんで、下がエビさん。次はエビの出番だが、うちで飼っているミナミヌマエビも含めて、通常は前に歩いたり泳いだりするが、大急ぎで逃げるときや、警戒しているときは、コイズミ的に尻方面に動く。

 自動車でいうと車庫入れだ。これと縦列駐車が苦手中の苦手であった。もう車は持っていないし、運転も20年以上していないので悪夢は去ったが、縦列駐車は最後まで、上手くできなかった。人間は後ろ向きに動くようには、できていないのに。ついでにいうと、坂道発進も苦手だったが、本件は若い人と話が合わない。


 アメリカに行ったら、連中も面倒なようで、通常、パーキングには頭から突っ込んで停めている。縦列駐車に至っては、時々、映画でも見かけるが前後に駐車中の車に、平気でぶつけている。数か月後には、私もそうなった。バンパーもナンバー・プレートも凸凹になったが、合理的である。自動車は貴重品という思い込みから離れれば、こっちの勝ち。

 東北の津波被災地で、お聴きした話である。その女性も車庫入れが苦手で、よほど時間と気持ちの余裕がない限り、勤め先の駐車場には頭から突っ込んでいた。その日、珍しく両者に余裕があり、手間かけて尻から入って車を停めたそうだ。


 地震が来たとき、なかなか津波が来ないので働き続けていたら、突然すぐ逃げろという緊急事態になった。オフィスは低い建物で、高台までは距離がある。彼女は車を選び、幸いすぐに前向きに発車して、駐車場を出てからバックミラーを見たら、津波が後ろから迫って来るのが見えた。

 私も歩いて登った高台にある公民館で、その話をお聴きしたのだが、彼女の車がその公民館の手前にたどりついた直後、第一波が数メートル後ろまで着て、ゆっくり戻っていった。あの朝、いつものように駐車していたら、間に合わなかったと思いますと彼女は言っていた。そういう運不運が、きっとあちこちにあったに違いない。


 ごく若い方々におかれてはご存じないかもしれないが、コミックス第12集で春波夫先生とマルオが、2015年の元日、通路のカーペット上ですれ違いがてら挨拶を交わした首相は、実在の人物がモデルで、その外連味あふれる言動から、小泉劇場型政治などと呼ばれていたものだ。

 現実の2015年には、彼が引き上げた人物が今日に至るまで首相を務めてみえるが、先輩のほうは後輩ほど、よくしゃべるタイプではなく、このためワン・フレーズ・ポリティクスという変な和製英語(ですよね?)を産んだ、横着なマスコミ対応で知られる。こんにち、アメリカの大統領が、SNSでそれを真似して大声で呟いている。


 何はともあれ、前にも書いたように漫画の活躍ぶりと比べ、映画のコイズミは今一つ、プレゼンスに欠けており淋しい。第三作においては、ほとんど神様のボウリング場で、カンカラのままコンビーフをかじっているだけである。

 本当の友達。これが本作のテーマの一つだった。ケンヂの宣言、コンチと13番の会話、ナショナルキッドに対するフクベエの恫喝、いろんな場面に出てきたが、やはりその白眉はコイズミの呟きだろう。雨の自動車道で、サダキヨは人生をやり直す決意をする。







(おわり)







Slippery When Wet - Bon Jovi
(2016年6月4日、真鶴半島にて撮影)









 I've been walking alone now
 for a long, long time.
 I don't wanna hang out now
 with the friends that just aren't mine

 ずっとずっと 俺は一人ぼっちで歩んできた
 本当の友達じゃない奴らとは もう付き合いたくない

     ”All The Right Friends” R.E.M.
















































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