第10巻第6話のタイトルは「コレクター」。”ともだち”には、収集癖があるのだ。今でいうオタクの走りと呼んでよかろう。コイズミが見て回るコレクションは、膨大な点数を誇る。これがある程度の誇張を含んでいたとしても、やはり第16巻に出てくるマンガの数は尋常ではない。
これほどの漫画本を子供に買い与える親の顔をぜひ見てみたいものだが、残念ながらフクベエ少年の家庭環境は全く描かれていない。彼はサダキヨのお面を借りて、自分でマンガを買いに行っているので、ふんだんに小遣いをもらっていたのだろう。
小学校高学年のとき、クラスの家庭科の授業で小遣い額の調査があったのを覚えている。私は月300円で最低レベル。最高額は月8000円で、驚いた教師が訊き直していた。いつでもどこでも、非常識な親と貧乏な親がいるのだ。
さて、コイズミとともに、展示物を鑑賞しよう。まずは壁に貼られた大村崑のポスターは、「小さな巨人」のオロナミンC。崑さんのオフィシャル・サイトによると、彼は大阪万博の運営に参与したそうだ。その大阪万博と東京タワーのペナントが、隣に飾られている。
最近はペナントをあまり見かけないが、昔は観光地で自分用あるいは子供向けに買う土産として必須アイテムであった。大阪万博のペナントの絵は、ちゃんと正式名で、「日本万国博覧会」と描かれている。さすがだな。
「世界一の東京タワー」には笑える。私の記憶では、東京タワーはモデルにしたエッフェル塔より少し高くして、世界一高い塔というのが自慢であった。しかし、これでは世界中に建てられた、どんな東京タワーなんかより、この東京タワーが一番という表現である。
先日、旅行した天草には「日本一の天草四郎像」があった。この像も、「世界一の東京タワー」も、きっと宇宙一でもあろう。さて、第16巻に何度か出てくるフクベエの勉強机の前の壁には、東京タワーと京都のペナントが飾られている。博物館では京都ではなく、大阪万博になっているのだ。これも”ともだち”の小さな嘘なのだろうか。だが、この嘘はちょっと切ない。
続いて、大きめの人形群がある。ミルキーのペコちゃんがいる。その次に幾つか並んでいるロボットのうち、手足が蛇腹になっているのは、「宇宙家族ロビンソン」に出て来た「フライデー」。語源は「日本一の芸能スクープ誌」ではなく、「ロビンソン漂流記」において、ロビンソン・クルーソーの従者となるフライデー氏(二人は金曜日に出会ったのだ)。
スター・ウォーズのジョージ・ルーカス監督は、登場ロボットのC3POとR2D2の造形について、黒澤映画「隠し砦の三悪人」からヒントを得たと語っていたと記憶しているが、それはそれでその通りだとしても、R2は明らかにフライデーの形状と機能と忠実さをモデルにしていると思う。
113ページ上段の絵がすごい。ほとんど壁が見えないほどマンガ本とプラモデルが並んでいる。机の上に並んでいるフィギュアは全部知っているから、私とフクベエはやっぱり同世代の似た者同士なのだ。どこかで間違ったら、私も無差別テロリストになったかもしれない。
左端からガメラの宿敵ギャオス、手塚治虫原作のマグマ大使、平井和正原作のエイトマン。その隣でバンザイをしているのがユキジのお気に入り、ジャイアント・ロボ。次は、こうも小さいと埴輪にしか見えないが、怒っていないときの大魔神もいる。懐かしいな、大魔神。
次のトラの顔は、タイガーマスクであろう。最近はランドセルを配って歩いているらしい。そしてお馴染みの鉄人28号、「夜の街にガオー」。手前に、ひょっこりひょうたん島の住民。右端がドン・ガバチョ。
天井から吊り下げられているプラモデルのうち、左に大きく見えているのは、サンダーバード2号である。左翼の裏に「T2」の略称も見える。5機ある乗り物のうち、私はこの2号が一番好きであった。次が4号。2号のこの独特の外観は、SF史上でも屈指の出来栄えである。機能は輸送船という地味そのもの。右に見える宇宙ステーションは多分サンダーバード5号だろう。
サダキヨ先生に「そこのコーナーにマガジンとサンデーがあるよ」と声を掛けられて、思わず笑顔で会釈しているコイズミがとても可愛い。だたし、続いてサダキヨは、本が傷むから、あまり開かないで読んでくれと、フクベエのようなことを言っているのだが、これはケチや狭量でそう言っているのではなく、博物館長として当然の責任である。
コイズミが引っ張り出したのは、少年マガジンの17号。表紙には矢吹丈の横顔が描かれている。おそらく彼の短かった選手生命の晩年の絵であろう。コイズミは「読みづら...。」といいながらも、しばし読みふけってしまう。
ニ三年前、手塚治虫展があり、テレビの取材で「どうだった?」と感想を求められた小学校中学年ぐらいの女の子が、「絵は下手だったけれど、面白かった」と答えたのには笑った。正直なものだ。私でも初期手塚作品は読み辛い。しかし、全てはそこから始まったと言っても過言ではあるまい。
我に返って「読んでる場合じゃない」と反省したコイズミは逃げようとするのだが、迷って別の部屋に入ってしまう。そこは、お面の部屋であった。おなじみのナショナルキッドや鉄人28号の他に、忍者の赤影や怪物くんの顔も見える。「流星号、応答せよ」のスーパージェッターもいる。そうだ、流星号も空飛ぶ車だったな。
そして、一つだけ離れて、特別扱いの展示になっているのが、忍者ハットリくんのお面であった。コイズミは存分に見覚えがある。バーチャル・アトラクションの中でも、悪夢の中でも、散々見てきたこのお面が、とうとう目の前に姿を現したのだ。なぜこれがサダキヨ先生のウチにあるのか? 悩む暇もなく、もう一つあったらしいハットリくんのお面を付けた先生が戻ってきた。
(この稿おわり)
先日、所用で中華街の近くに行きました。
しかし、握り飯の弁当持参だったため、中華を食べられなかった気の毒な私。
(2012年2月11日撮影)
