おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

羽田の基地   (20世紀少年 第316回)

 第11巻の139ページ目に、羽田の秘密基地が出てくる。ヨシツネの5つある基地の一つ。先日、コイズミが電話ボックスから連絡を取ったのは、この基地だろう。羽田はなぜ廃墟が立ち並ぶ再開発地区になってしまったのだろう。1997年の羽田空港爆破の際か、2000年の海ほたる爆破のときか。おかげで地下活動がやりやすくなった。

 ユキジとヨシツネは再会を喜びあった。市原弁護士も駆けつけてきて、オッチョが新宿のホームレスの中に潜んでいるらしいという情報を提供している。だんだんと散り散りになっていた仲間や、新しい戦力が集まりつつある。壁際の写真も、もうユキジのそれは要らない。


 コイズミとカンナは、原っぱの秘密基地の話で盛り上がっている。この二人が笑顔で語り合っているシーンというのは、最初から最後までついに登場しなかったのではないか。いつもどちらかが怒っていたり焦っていたりで大変なのだ。コイズミがヴァーチャル・アトラクションで「全身、ヤブ蚊に刺された」話をしてカンナを震え上がらせている。それを微笑みながら眺めているユキジとヨシツネは、かつて本物の原っぱの秘密基地で、さんざんヤブ蚊に悩まされたに違いない。

 ヨシツネは、これからも同じようなことを何度もしようするのだが、ユキジか誰かに隊長の座を譲ろうとし、しかし誰も賛成してくれない。間の悪いことに、昼飯の弁当の数を訊かれて答えてしまった上に、メニューをカツ弁に変更する命令まで出してしまったので、「ごちそうになります、隊長」というレベルで、隊長留任となった。

 ちなみに、ここで昼飯の手配をしている青年は、ヨシツネの片腕で弁慶みたいな存在であり、かつてコイズミの会員証を作るに際し、「たいしたものは写っていなかった」ため「下の部分」を切って捨てた人である。


 そのコイズミは、枕が変わると眠れないし着替えもしたいと訴えつつ、なんとか脱出しようとするのだが、ヨシツネに”ともだち”の写真を見た事実をユキジに告げられてしまって万事休す。これまで、コイズミは神様やヨシツネやサダキヨに随分と振り回されてきたものの、この男たちはマイペースなだけで、あまりうるさいことは言わない。

 しかし、ユキジとなると相手が悪い。「卒業アルバム見たら、どの子か分かる?」と詰め寄られた段階で、コイズミはメンバー入りが決まったようなものだ。ヨシツネは、サダキヨが殺されたと信じており、彼が究極の情報を伝えた以上、コイズミは自分らの仲間に加わらない限り命の保証はないと考えている。のちに、ユキジも、どの子か分かったら情報が共有できるので、コイズミは危険でなくなると第11話で説得材料に使っている。だが、これらの論理は正しいか? 



 第一に、サダキヨが”ともだち”の写真を見せたのは博物館内の密室の出来事であって、「究極の情報」が伝わったかどうか分からないはずではないか。この点は例によって、”ともだち”一派は、博物館にも盗聴器や監視カメラを備え付けていて、筒抜けだったとしよう(これは有り得る)。

 しかし、仮にコイズミが少年の顔と名前を特定してヨシツネやユキジに知らせたとしても、知らせた事実そのものが”ともだち”側に伝わらなければ効果がないし、伝わっても、究極の情報を握っていること自体に変わりはない。”ともだち”にとっては、危険人物の数が増えるだけだ。

 要するに、もうコイズミはこのままでは、学校や自宅には戻れないのだ。ヨシツネもユキジも分かっているに違いない。それでもあえて、協力すれば安全だと主張せざるを得なかったのは、当の本人が「せめてパンツだけは」などと市原弁護士に泣きついているような有様なので、ちょいと脅かさないと役に立たないと考えたのだろう。


 もう一つの究極の情報がある。それは、サダキヨからコイズミを経てカンナにもたらされたモンちゃんメモである。しかし、そのメモはもともと飲み屋で殴り書きしたもので、また、12年の歳月が紙を変色させてペン字を薄め、さらに、モンちゃんの血が飛び散っている。「ほとんど読みどり困難」だとヨシツネは残念がっているのだが、しかし、ある部分を解読した。「キリコ行方 オデオン座」、そして地名の一部。

 メモはサダキヨが盾になってまで守ったモンちゃんの遺産である。カンナ一人、そこを目指して出かけることになった。その場面は、もう少し後に書くとして、その前に、このモンちゃんメモを読んでみたいな。


(この稿おわり)



今年はモクレンの花も遅かった(2012年4月1日撮影)