おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

原子力政策  (第1054回)

 あまり時事ネタをここで取り上げないようにしているのだが(娯楽目的ですから)、以下に関することは、すでにここでも何度か話題にしているし、その続きを書かずにはおけない感じになってまいりました。

 ことの発端は、ネットで評判になりつつある先週金曜日(8月26日)に実況で報道されたNHK総合の深夜番組、解説スタジアム「どこに向かう 日本の原子力政策」である。テレビは見逃したので、概要を読んだだけなのだが、「どこに向かう」とあるように、原子力政策の現状と先行きに強い懸念を表明しているご様子。


 NHK、よくやったと快哉を叫んでみえるネットの書き手も多いが、今のところまだ、原発大反対ではなさそうなのだけれど、どうなのでしょう。確かに、推進一本やりできた政府に対し、この問題提起は大きい。もちろん私も、やってくれてよかったと思います。でも、本当に物事は良い方向に進んでいるのだろうか。

 もう政府も産業界も抑えておけないほど、事態が深刻になっているとしたらどうする。私たちは無論知らないよりは知っていた方がよいけれど、個人では当面、何の具体策も打てないまま、事の成り行きを見守るほかない。まずは、今ちょうど東北に向かいつつある台風10号が、福一に甚大な影響を及ぼさぬよう祈るばかりである。


 抑えきれないほどという物騒な表現を使ったが、実際、東電福島第一の事故現場で何が起きているのか、最近はほとんど全く報道されないうえに、熊本の大地震が起きた。川内と伊方は、地震発生のメカニズムを語るスケールにおいては、中央構造線に乗っかっているようなものだろう。

 うちの実家のそばの浜岡は、プレートやらトラフやら、見たことないが怖い滑り台の上にある。もんじゅも、いつまで停まっているのだ。核廃棄物のゴミ置き場も決まらない。この状況で、国会の答弁よりマリオが似合うお方が、かつて断言した「アンダー・コントロール」を維持したまま、残り4年を切った東京オリンピックを迎えるのでしょうか。


 天下のNHKが、こういう政府の窮状に手を貸すのは、おそらく決して珍しくないはずで、つい最近も天皇陛下の「お言葉表明」で、予告編と本編を放映したばかりである。今回もまさか、解説委員だけでクーデタを起こせるとは到底、思えん。物事が良くない方向に進んでいるらしいことを、少しずつ知らされ始めたと考えた方がよい。

 8月中旬は日本国民の平和と安全に対する意識がピーク・アウトするから、始球式にはちょうどよいタイミングなのだ。きっと、この軟弱ブログも含めて、あらゆる一般人の反応を、ただいま鋭意、情報収集・分析中なのであろう。お疲れさまです。労働基準法、守らせてくださいね。


 原発の即時廃止について、私が及び腰だった理由は、ここでも二三回は書いている。主に三つだが、まず一つ目の、将来に向けて電力の供給力に支障はないのかという点だが、これは正直言って手に余る。一方、残る二つは自分の仕事(雇用関係・健康問題)に直接かかわるので、難しくて分かりませんでは済まない。

 一つは、廃炉にするとして、何十年もかかるそうだから、その目的に必要な研究者や現場作業員の確保はどうするという点だ。専門的な知識や実務経験なしでは絶対に無理だろう(廃炉に関しては、その知識や経験も十分かどうか不安なのだが)。

 この点は、まだきちんとした意見が出せない。しかし、残念ながら現役の雇用は維持できても、数十年後に至るまでの後進の育成や指導は、至難の業となるはずだ。これについては、たぶん誰も異論あるまい。最終的には、多額の税金でアメリカやフランスを雇って始末してもらうほかないのではなかろうか。誰かもっと気分が軽くなる良策を考え出してください。


 もう一つは、推進派なる方々から、毎回のように話題に出される地元関係者の生活である。すなわち、食堂、宿泊、運輸といった主に作業員相手のお仕事をなさってきた皆さんの失業問題で、これが一番、私には辛い。でも、もう言わなくてはいけない時期にきたように思う。はやく、他の仕事を探してください。今の仕事が続いているうちに。

 外野のくせに、無責任だと言われるだろうな。でも、そのままのほうが良いというより、はるかにまともな提案になるだろうと思って言っている。この国は私の半生において、その政治経済社会に関する諸政策のため、経済成長も遂げてその恩恵にあずかっているが、同時にたくさんのものを失った。

 
 今回の話題の雇用でいえば、私の生まれた年に、個人事業従事者がサラリーマンに数で抜かれた。その頃までは農業が従事者別の人口でいうと、最大の産業だったのだ。さらに、今日にいたるまで、大規模店やチェーン・ストアが、小さな店を圧倒し駆逐し続けている。これはどうしようもない。彼らが悪い訳ではない。

 とはいいつつ、ここ数年で、うちから徒歩数分の範囲内にあった個人の店舗で、私が毎週のように使っていた店は、店長がまだ隠居する歳でもないのに片っ端から潰れた。本屋2軒、クリーニング屋、時計屋、酒屋、文房具屋。使っていなかった店を除いても、このありさまだ。


 田舎の静岡では、わたしと血縁のある親戚が三つの小さな店を営んできたが、三つとも廃業した。その近所は、嫌な言葉だがシャッター商店街そのものである。それぞれ、いまどこで次の仕事をしているか分からないが、おそらく巨大資本に飲み込まれたのだろう。

 こうした一般の小規模事業の壊滅状態は、ほとんど全く報道されない。されても、たいてい少子高齢化・都市集中化で片づけられている(それらも大きな要因だが)。この効率最優先が私たちの選んできた道であり、安価なエネルギーではないことがわかった原発の周辺産業とて、その例外ではあり得ない。幸い手に職を持つ人が多いはずだ。いやもう、とっくにそういう動きは始まっているのかもしれない。


 幸か不幸か過去5年、電力需要は何とかなった模様です。そろそろ潮時とのご判断か。私が独裁者になったなら、原発は止めて、その代わり先ほどの人材の確保と育成を目的として、もんじゅに替わる調査研究施設をたくさん作る。廃炉廃棄物処理も、そこで考えさせる。

 せっかく始めたのだから、続けなくては損だ。なんせ原子力発電政策ではなくて、原子力政策なのだ。プルトニウムをたくさんためておけば、他にもう一つ、アメリカが日本で実験して成功済みの使いみちがある。NHKの本当の出番は、これからだ。






(おわり)






法師蝉のメスは、なぜか低いところにとまる。それに逃げない。
(2016年8月25日撮影)
















 計画どおりにいかないことが たくさんある
 プルトニウムの風に 吹かれていこう

        「旅人」 THE BLUE HEARTS  









































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