おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

宝物 (20世紀少年 第868回)

 
 先般ある禅僧の講話を拝聴する機会がありました。一概にこう言っては失礼かもしれないが、昨今およそ僧侶のお話しに聞き入るというような機会がない。こちらの感受性のせいなのか、それとも相手の問題なのか。

 ともかく今回のお坊さんの話は幸いにして面白く、いろいろと勉強になった。その中で僧は、今の日本は価値観が多様化しているように言われているが、むしろ単純化しているように思うと言われた。その先は何も仰らなかったが私には一つしか心当たりがない。お金。


 数年前のことだが新聞のコラムに、塩野七海さんが「多様化したら、それはもはや価値観ではない」と書いてみえたのは流石である。みんなして「何となく上手く言えないけれど価値がある」という共通の感覚があってこその価値観である。

 典型はダイアモンドであろう。我ら古い世代はダイヤモンドとなまって発音し、古来珍重してきたものだが、けっこうな量を産出するらしくて生産調整と価格操作をしていると聞いたことがある。人工も可能だし単なる炭素の塊なのに、何故か女が欲しがるので男が苦労する。 


 さてさて。ケンヂはパンチアウトに一応成功したらしい。鼻血も出ているし咳き込んでいるので救護班が呼ばれているが、けが人のケンヂはそれどころではない様子であり、外はロボットで大騒ぎだろうと国連軍に問いただしている。

 プロファイラーはランク∞の発信を認めたが、隣の男が「ロボットは我々がテーマパークに追い詰めた」と言ったのに対して、ケンヂも怖い顔付きで(おそらく、この作品中もっとも怖い)、「追い詰めただと」と噛みついた。


 連合軍の男によればロボットは原子力エネルギーが使用されているという。そんな奴が国連軍の駐在するオフィス街をウロウロされては困るので、取りあえずテーマパークに行ってくれないかなと期待しながら後をついていったら、上手いこと相手もテーマパークを目指したのだろう。

 今のところ「放射能漏れは確認されていない」と、原子力エネルギーが制御不能になったときの決まり文句を国連が述べる。あーだこーだとケンヂを止めようとする外国人たちに、彼は「どけって言ってんだよ」と堪忍袋の緒が切れた。

 
 血の大みそかの初代ロボットは、「よげんの書」に「原子りょくきょだいロボット」とスペックが記載されていたため、ロボット会議における”ともだち”の命令により原子力で動くことになった。お馴染みの扇風機のような放射線のマークも頭のてっぺんあたりに描いてみた。

 だが、このときの「原子力エンジン」はニセモノであった確率が高い。新宿のど真ん中で高層ビルがぶっ飛ぶほどの爆弾テロと、ケンヂが持参したダイナマイトの爆発があったのだが、すぐ埋め立てられたとカンナや蝶野刑事は言っていたし、そこから放射能漏れがあったら歌舞伎町や大久保で暮らせるものではない。


 今回の二代目はどうか。ロボット全体の性能が格段に向上しているのは間違いない。だが、最後まで原子力エネルギーだったかどうかは分からないで終わる。だが、そう聞いた以上、ケンヂは前回のように爆弾騒ぎを起こすわけにはいかなくなった。時間もない。

 世界が終わるんだぞと怒鳴って、彼は国連軍を驚かせている。この後どのように説明したか知らないが、どうやら即刻、好きにさせてもらったらしい。そして、彼が向かう先では同じころユキジとカンナがまだ秘密基地にいる。

 
 カンナは念力で反陽子ばくだんのスイッチを壊そうとしたが、全く効果なく悔し涙を流している。自分の超能力なんてスプーンを曲げるだけで、何の役にも立たないと自己評価が低い。

 確かに彼女が意識して超能力を発揮したのはスプーン曲げのときだけと言えるかもしれない。残りは窮鼠猫を噛むのごとく、追い詰められた挙句のサイコキネシスやテレパシーであった。でも、ここでも追い詰められているな、確かに。今日はスランプか。それともスイッチ自体がニセモノか。


 落ち込むカンナに「バカね」とユキジは声をかける。バカとはユキジにとって親しみのこもった挨拶みたいなものなのだろう。「あなたはみんなの宝物よ」とユキジおばちゃんは言った。

 そしてそれはカンナに特別な力があるからではなく、「あなたが大事なだけ」であると付け足した。これで説明になっているかどうかはともかく、これまでユキジがカンナにかけた言葉の中では最も母親らしい言葉であったろう。


 ここにいたら踏みつぶされるから行こうとユキジは促したのだが、カンナは何等かのイメージが脳裏に浮かんで驚いている。超能力は別方面に出動中だったらしい。そのイメージとは本棚にマンガの本がいっぱいという、いかにも「20世紀少年」らしい光景であった。

 続くシーンはマンガ家たちの登場である。ウジコウジオと角田氏の三名は、動き出したロボットを常盤荘から追いかけて来たらしい。だが彼らだけでは如何ともしがたい。氏木氏が俺達のマンガを完成させたかったと嘆き、角田氏がガックリとうなずく。そこにバイクの音がした。



(この稿おわり)





一輪挿し。クリスマス・ローズ。 (2014年3月22日撮影)





あー、上手く言えないけれど宝物だよ    

       「ダイアモンド」  プリンセス・プリンセス
















































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