おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

最初の発見者  (第1022回)

 繰り返しになりますが、三部作の映画のうち、第一作は漫画と比べても、それほど大きな内容の変更はない。敢えて言えばクラス会の設定が学年の同窓会になっているのだが、スト―リーに大きく影響するほどのものではないと思う。

 あの会のポイントは、まず40歳近くにもなると小学校の同級生の顔も名前も分からなくなることが多いという点で、これは映画も踏襲している。外されたエピソードのうち主なものは、関口先生によるスプーン曲げ騒動の再演と、宴会後にケンヂがフクベエを送っていく場面なのだが、いずれもその続きごと省かれているので、これは惜しいが長編の映画化の宿命で仕方がない。


 これらと比べて、個々の場面を略したのではなく敢えて筋を改めたのが、血の大みそかの巨大ロボットを阻止する作戦の顛末だった。個人的にはモンちゃんとユキジの車内の会話は残してほしかったのだが、ミステリー・タッチにすると、得てしてこういうことになる。ユキジの「死んだら、ただじゃおかない」もボツになったなあ。あれ、ものすごく効果あったのに。

 漫画ではその車の二人とバイクのオッチョが向かった友民党本部だが、映画だと年末年始の休館で入れない。このため、友民党本部でのやり取りはカットされ、各人の役割も部分的に変更になっている。ヨシツネは四ツ谷で車内に残り(たぶん、残され)、巨大物体が防衛当局の前で、自衛隊と機動隊を粉砕するのを実況中継している。


 そして、ケンヂとマルオは渋谷から拳銃とダイナマイトを運んできたトラックに乗り込み、フクベエとオッチョは徒歩で地上掃討作戦に出た。このあたりのシーンで、最初にコミックスを読んだとき、私は大事な情報を二つほど見逃している。

 一つは、漫画だとケンヂが、映画だとオッチョが相棒になっている男が、忍者ハットリ君のお面をつけてパソコンらしきリモコン、あるいはリモコンらしきパソコンを操っている様子の不審者を見つけている。つまり、いずれもその第一発見者がフクベエなのだが、私はそれを見落とし、さらに、どのように「敵」を見つけたのか、その場所をどうやって特定したのかも考えなかったのだ。

 
 第一発見者云々を話題にするのは、今回が最初で最後だ。もう十年ほど前に知り合った方々の中に、図らずも第一発見者になってしまった人がいる。その後の大変な苦労の一部をお聴きしたのだが、勿論ここで具体的に書けるはずがないし、今後、一般論で語るのも控えたい。

 本日限りの話題として出すと、言うまでも無く第一発見者は、現実の世界でもフィクションのミステリーでも、止むを得ないのだろうが真っ先に疑われるらしい。実際、事件報道などで、それを意識し強調しているのを時々耳にする。でも、本作の読書では緊迫のストーリーを追いかけている最中だったので、そんなこと思い浮かばなかった。


 もう一つ見逃したのは、作品中でも(第12集)、ヨシツネとユキジが2015年の正月まで、問題点に気付かなかった一枚の写真についてである。二人によれば見るからに合成写真で、見たくもないと言っていたのだが見てみたら、ユキジが自分たちの姿が本物であることに、そしてヨシツネが当夜の服装であることに思い至った。ここでようやく私も気づいたのだが、後ろ向きの彼らが6人しかいない。

 そして、両人は誰が撮ったのかを思い出したのだ。ここでヨシツネが裏を取るにあたり、関口先生がお正月早々に電話口に呼び出され、司法取引のようなことにまで付き合わされている。クラス会では、この第一発見者が勇んで手を挙げたのだが、みんな酔っぱらっていて子供返りしており、つい担任の指示に従って瞳を閉じてしまった。


 この写真は連載のもっと早い時点で、その合成後の絵が出てきている。すなわち上記と同じものと思われる写真(出典はいずれもコイズミの教科書)が第7集に登場し、これを嘘くさいなどと感じたままを正直に口にしたばかりに、コイズミは要らぬ苦労をすることになる。

 彼女が変だと思った理由は、映画ではカンナのセリフになっているのだが、こんな近くにいたらリモコン操作どころか彼らの身が危ないという点と、ロボットに立ち向かっているようにさえ見えるということだった。危ないというのは巨大物体に相対しているので、ウィルスを浴びるおそれありということだろう。


 実際はどうだったかというと、写真撮影時は第12集に出てくるように、合成写真の下半分が本物で、すなわち6人の歩く姿と、その下の地面に描かれている横断歩道などである。その向こうに顔をのぞかせている巨大ロボットが、コイズミのいうCGでこしらえたインチキ写真であった。2000年の嘘である。

 また、この時間帯に巨大物体がどの辺にいたかという点については、第5集にあるように火の手が上がっているのは、彼らが歩む大通りのまだずっと先のほうである。彼らは第7集によると、このあとでダイナマイト運搬用のトラック、乗用車、バイクに分乗して移動している。写真を撮った地点は、ロボットのすぐそばではないのだ。では、どこか。


 手がかりらしきものは、私に一つしかなく、第12集に出てくる本物の写真が撮影されたときに、ケンヂたちが足を踏み入れようとしている十字路である。映画ではあまり鮮明ではないので、以下、漫画に拠る。手がかりといっても、候補の一つぐらいという自信しかないのだが、これだけ風変りな横断歩道も珍しい。

 写真に写った手前と前方の横断歩道は、大通りが狭い方の道と交差するところによくある普通の直線コースで、はしご模様のものだ。個性的なのは、それらに挟まった十字路の中央に描かれているほうで、通常のスクランブル交差点は「バツ印」のタスキ掛けになっているのだが、ここは全面的に白黒模様で、しかもハシゴの線が斜めに引かれている。

 
 都内でこれとよく似たデザインの交差点があり、私は二十代のころから今日に至るまで何度も渡っている。最近はここのすぐ近くで時々、会合に参加している。新宿歌舞伎町の交差点だ。歌舞伎町にあるというだけではなくて、交差点の名前が「歌舞伎町」である。うちの地図にも、そう書いてある。

 後ろ姿で歩いている彼らのすぐ前にある横断歩道の空白地帯(色で述べれば空黒地帯)の三角形まで、そっくりなのだ。しかも、漫画にも描いてあるのと同じく、この四つ角の一つに薬屋さんがある。

 
 ただし、彼らがこの道を渡って真っすぐ進んだかというと、どうもそうではない気がする。この細いほうの道は実際の薬屋さんの方向に進むと、「いいとも」でおなじみのスタジオ・アルタの横に出て新宿駅に突き当たる。確かに、駅ビルの向こう側には、後刻、巨大ロボットが進んだ南口があるのだが、まだ時間的に早い。そこに行くとは断定できない時点なのだ。

 アルタを背にして反対側に進むと、こちらも間もなく突き当りになる。かつての新宿コマ劇場の場所に来て行き止まりだ。つまり歌舞伎町のど真ん中に入ってしまう。その向こうに二丁目の教会や、ねーざん通りがある設定で、その北は大久保である。

 つまり、高校生になってからのカンナの学校とバイト先は、単にケンヂおじちゃんがロボットごと吹っ飛んだ甲州街道の事故現場(犯行現場か)に程近いだけではなく、当夜の出陣の地であったのかもしれないということだ。


 ちなみに、この歌舞伎町交差点で交わっている広い方の道が、靖国通りだ。したがって、第7集で彼らが遠く振り仰いで見ている火災は、おそらく近づきつつあるロボットの居所で起きている。ケンヂはこのあと、俺ならリモコンで動かすという仮説を立てて走り出すのだが、この交差点から大ガードをくぐって左折すれば、間もなく彼が最初にたどりついた新宿センタービルに至る。

 いつものとおり根拠は薄弱だが、矛盾はしていないように思う。さて、映画は悪人の生い立ち・成り立ちを一人分に絞ったため、その分だけ血の大みそかも、あっさりしている。漫画でフクベエがケンヂにビルの上で語った内容の、どこまでが嘘で、真実があるとすれば何なのか、無念であるが私には映画でも検証できないです。





(この稿おわり)







少女漫画とくればバラの花  (2016年5月5日撮影)








あ、いや、記念にと思って...。
歌舞伎町交差点(本物)。
(2016年5月23日撮影)







 神様、いま十字路に立っています
 きっとここで 私は力尽きるのでしょう

    クロスロード・ブルース  − ロバート・ジョンソン



















































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