おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

ロックじゃねえ  (第952回)

 先日の宣言どおり、映画「ゴールデンスランバー」を観ました。この作品は原作小説のストーリーやセリフをかなり忠実に再現しているので、映画の感想文というより役者の感想文のようになりそうだ。相変わらず私は脇役好きなので、そちらに重点が傾く。今の邦画は客寄せのためか本来の役者ではない「きれいどころ」ばかり主役に集めるので、往々にして脇のほうが上手い。もっとも本作は主役が無類の芸達者だが。

 今は殆どテレビ・ドラマを観ていないが、なぜか四十代後半は体調不良で仕事があまりできなかったせいか、映画やドラマを比較的よく観ていたものだ。そんな時代のNHK大河「篤姫」や「龍馬伝」、スペシャルドラマ「坂の上の雲」、そして映画「20世紀少年」に出演していた俳優がたくさん出てくるので、それだけで楽しい。


 映画の冒頭は、小説の終幕から始まる。主演男優と主演女優が、現代では唯一出会う場面である。クールな樋口の娘のしぐさで、母子の企みが成功裏に終わったことが分かる。何も知らない旦那役は武市半平太大森南朋。その次に出てくる中央分離帯の街路樹が緑豊かな大通りは、仙台市内にあるのだろうか。矢印と「広瀬通駅」という字が書いてある標識が見える。

 主人公の堺雅人が釣り人姿で駆けていくのは、ビートルズの唄が聞こえてきそうな交差点。元彼女が動物園で観たいといっていたアビシニア・コロブスのような黒白のツー・トーン・カラーの横断歩道は、私がむかしロンドンでEMIのアビーロード・スタジオの前から反対側に渡ったものと少し似ている。まあ、どこでも横断歩道は似ている。


 ファストフード友の会の男三人、堺と満男(えー、吉岡秀隆)と劇団ひとりが、どちらかというとノンビリ型二ヤケ顔なので(しつれい)、竹内のシャープなセリフと顎の輪郭(美人の必須要件です。整形の際はご留意を)が全体を締めている。劇団ひとりは、この映画で初めて観たのではないかと思う。その熱演は劇中歌でも褒められた。ひとり、それもいい♪ 

 女優は他にも綺羅、星のごとし。整形アイドルの貫地谷しほりは、「スイングガールズ」以来だったかな。うちの近所のご出身なのです。当代きっての若手女優になられた。ロボットのラジコン男ならぬヘリのリモコン少女は相武紗季で、えくぼが可愛い。後輩カズの連れを演じていたソニンは、数年前に舞台で観た。「ミス・サイゴン」のヒロイン役。最後に木内みどりが出てくるのもうれしい。お元気そうで何より。


 捜査本部の顔ぶれも豪勢であり、本部長はゴリさん兼チョーさんの竜雷太で、またも伝説の刑事となる。担当警視正ワープロ一太郎は、ヨシツネ兼岩崎弥太郎香川照之で、後に堺とは「鍵泥棒のメソッド」という良い映画を作っている。何をやらせても上手いが、ヨシツネよりは悪人のほうが似合う。

 それから永島敏行も久しぶりだ。ブリトニーさんを殺した鼻ほくろ同様、町中で無闇にショットガンをぶっ放す非常識な刑事だが、ちゃんと防音用のヘッドギアをしているからプロだ。最初に永島さんを観たのは、たぶん「サード」。これも古い映画だが「遠雷」、ぜひ見てください。主役の彼も良いが、今は亡きジョニー大倉も、肌じまんの石田えりも見逃せない。


 恥ずかしながら、役者名を覚えていないのだが、「びっくりした」の連続通り魔キルオと、かつて主役の教育担当だった独眼竜で名高い宅配業者に勤める岩崎先輩のお二人も忘れがたい。岩崎さんは、その名に負うロックが命の男である。

 おじさん俳優たちも負けていない。今一番のコメディアンは、伊東四朗だろう。秋山兄弟の父上も飄々としていて原作の味が良く出ていたが、本作の「ちゃちゃっと逃げろ」で息子と人質の刑事以外の日本人全てを敵に回した親父の役も、この人ならではの存在感である。

 いや、あのセリフは柄本明も喜んでいたかな? 「裏社会つーか」に生きる仮病人で、なぜか地下水道に詳しい。彼の証言と映像により、サナエとカツオがアケボノバシに急いだ下水道が、雨水管であることが分かる。やはり乃木さんより、こういう役回りのほうが似合うな。


 花火屋の大将、ロッキー轟はベンガルである。最初に観た記憶のある映画は「僕らはみんな生きている」。映画「20世紀少年」では、オリコ―商会の社長でヨシツネの上司にあたり、辞表を叩きつけられて「やめちゃうの?」と言っていた人。柄本とベンガルは私が学生のころ出て来た東京乾電池のメンバーなのだが、もう知る人も少なくなってきたか。
 
 同じころ流行っていた「きんどん」で踊って歌っていた山口良一が、最後のあたりでサイドカー付きハーレーという豪華絢爛なバイクで全国周遊の旅から帰宅する。主人公は自らを救ってくれた極悪人の鎮魂のため、家主にご挨拶にきたのだ。目立つから着替えよとまで言ってくれて、そのとき借りて逃げ回りながら羽織っていたダヴィッドソンのジャケットを、青ヤギさんはクリーニングに出してから返却している。


 そして、先輩への挨拶も忘れなかった。ただし、幸い本人不在であったため、奥様に伝言を頼んでいる。ロック岩崎が宅配の激務を終え、せっかく帰宅したのに、妻が挨拶を返さない。今日も疲れて戻ったのに、黙々と料理にいそしんでいる。僕らはみんな知っている。女が喋らないときほど怖いものはない。

 これは本人の自業自得なのだが、生きて戻って、ちくってみろと青柳容疑者をそそのかしたのは彼自身だったのだ。容疑とは首相暗殺および「あのアイドルとやった」疑惑だが、先輩は自首済みで、後輩の手柄を自慢しつつ、キャバクラの姉ちゃんと親睦を深めてしまった。後輩はみごと生き延び、約束通り、その件を奥様に伝えて去った。当事者同士しか知らない秘密が存在証明に上手く使われている。たいへんよくできました。

 奥様から今日の出来事を聞かされた先輩は、ロックだぜとご満悦であるが、奥様に「ロックじゃねえよ」と、しばかれている。攻撃側が痛がるほど強烈な蹴りが極まったようだが、お怪我はないか。なお、ミセス岩崎は亭主やケンヂの大事な価値判断の基準である「ロックか否か」自体を否定していている訳ではなく、キャバクラ浮気がロックじゃねえと断罪していることに留意したい。ケロヨン、聞いた?


 楽曲「ゴールデン・スランバーズ」は何か所かに出てくるが、やっぱり本来が子守歌だから、森田がクスリで眠らせた旧友に子守歌として歌っている場面が印象的だ。これに限らず、ビートルズの唄は大変、使用料が高いそうで、メンバー本人たちが出てくる作品以外の映画では、ほぼ全てカバー曲である。

 ジョン・レノンの法定相続人の一人と、この私には共通の知人がいる。その人が当人から聴いたところによると、今は亡きジョンの印税やら何やらが、毎日、5億円ほど入って来るらしい。誤植ではなくて、本当に「毎日」。羨ましいっちゃ羨ましいが、しかし一つだけ気の毒なのは、ここまで来てしまうと、もうお金では幸せになれないということだ。臨時収入で喜んでいる私のほうが、ずっと幸福であろう。どおりでポールはまだ演っているんだな。






(この稿おわり)










海の底でゴールデン・スランバーズか
(2015年7月17日撮影)



















 But when I get home to you,
 I find the things that you do
 will make me feel all right.

          ”A Hard Day's Night” The Beatles











































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