おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

のろし  (第953回)

 「のろし」は、第5集第4話のタイトルになっている。それが描かれているページには、「よげんの書」でも屈指の稚拙な絵があり、しかも説明文がないため、描いた本人のケンヂが思い出せないでいる。昔の少年誌の特集では野球、プロレス、幽霊・おばけ、人類滅亡などのほかに、忍者や戦国時代も人気者だった。きっと基地の仲間も私も、こういう漫画本で「のろし」を知ったに違いない。

 早速、広辞苑第六版。これが結構、長い解説である(一部、略します)。【狼煙・烽火】(「狼煙」の表記は、中国で狼の糞を燃やしたからという)①火急の際に遠方への合図として高く上げる煙。とぶひ。②(比喩的に)一つの大きなことを起こすきっかけとなる目立った行為。③昼間に上げる花火。


 すでに1997年には「さんふらんしすこ」、続いて「はずかしくて言えねえ」ロンドン、次に万博で有名な大阪が細菌兵器で襲われ、飛びます飛びますの羽田空港も爆破された。上記の②に該当するであろう「のろし」はその後の2000年のことだから、97年は前触れ的な活動だったわけだ。

 のろしに漢字表記が二種類あることからも分かるように、世界的に火と煙の両方が使われていたらしい。人類の発生は何を以て定義するか。むかしは子供向けの本でも大真面目に議論されていた。その内、二足歩行、音声(言語)による情報交換、道具の利用等は、意外と他の動物でもやっていることが分かってきて威張れなくなり、火を使い始めたときというのが優勢ではないだろうか。

 
 野生動物はヤケドなど負ったら致命的である。だから飛んで火にいる夏の虫など一部の例外を除き、火を怖がる。これを夜間の警備や料理に使うというふうに頭を切り替えたのが我らのご先祖であった。それを情報伝達の目的で、すなわち通信機器として使ったのが烽火であるから、IT技術の第一号と呼ぶにふさわしい。インフォメーション・テクノロジー

 大目標が世界征服なら標的はホワイトハウスか国連本部のほうが効果的だと思うが(この冗談はきつすぎるか。経済的繁栄のシンボルが航空機テロで壊されたからなー)、さすが作者も実行犯も日本人だけあって、烽台に選ばれたのは我が国の国会議事堂であった。


 その日が12月の21日の夜であったことは、漫画に書き込まれている報道内容、直前のモンちゃんとマルオのクリスマスの話題、直後にケンヂが「もうすぐ大みそか」と言っているから間違いない。31日まで待つと、議員さんたちも暮れ正月の休みに入ってしまうから衆院の会期中(議題は内閣総理大臣の不信任案と報道されている)の終盤を狙ったものだろう。

 当夜、国会議事堂の周辺を見廻っていたのは、バイクに乗ったユキジと、徒歩のオッチョだった。前に「雨」という題で書いたときには忘れていたが、この夜も雨が降っている。通常、国会の会期中にオッチョのような人相風体の不審者が議事堂のそばで徘徊していたら、すぐに警備にとっ捕まると思うが、まあそれはよい。


 帰投するユキジと粘るオッチョが別れるシーンに国会議事堂も描かれている。私の知る限り、部外者が議事堂を比較的近くから見ることができる場所は、まず、以前も写真をアップした国会図書館の前あたりなのだが、建物の横側が見えるだけなので、これらの絵とは方角が違う。オッチョは議事堂の正面から見て斜め左前にいる。

 このあたりにも、一般人が出入りできる場所があって、去年はそこでセミナーに参加しました。憲政記念館という。衆議院のウェブ・サイトによると、徳川時代当初は加藤清正公が住み、その終盤には彦根藩上屋敷で井伊大老が暮らしていたというから由緒正しい。記念館のすぐ裏に桜田門がある。ペリーの黒船が攘夷の政治的な「のろし」となったとすれば、桜田門外の変は、攘夷が戦闘状態に入る際の烽火というべきか。


 井伊家の関係者にはきつい言い方になるだろうが、襲撃の際に御大老は籠の中で何をしていたのだ? 周囲で部下が死闘中なのに座っている場合か。さらに吉良上野介は蔵に潜んでいたらしい。豊臣秀頼はママと一緒にかくれんぼ。誰でも命は惜しかろうが、これでは侍大将とは呼べまい。公家政治家のようなものだ。みんな世襲議員だもんね。

 さて、毒を吐くのもいい加減にして、先日話題にした映画「ロード・オブ・ザ・リング」には、目の覚めるような烽火の場面が出てくる。小説では軽く触れられているだけなのだが、映画はCGを駆使して見せ場を作っている。峰々を結ぶ烽台が次々と点火されて炎と煙を上げ、ミナス・ティリスの要塞から、隣国ローハンへの援軍要請信号となる。ローハンは立った。


 もう二十年か三十年も前のニュースだが、「トンネル新幹線」と呼ばれるほど山がちな山陽の地形を利用して、烽火と山陽新幹線が競走したという話を聞いた。さすがに新幹線のほうが少し速かったそうだが、のろしも大健闘だったらしい。何しろ着火の作業に時間を要するだけで、信号自体は光速で飛んでいくのだから、準備さえ良ければ速いのだ。準備が悪いと真珠湾攻撃のときの大使館のようなことになる。

 私には夢がある。来る2020年の東京オリンピック。毎度同じ趣向でアテネから会場にトーチがリレーされていくのだが、たまには手段を変えて、烽火にしてはどうだ。たいまつの聖火リレーといっても、正確には別の可燃物に引火させているだけで、アテネの火がそのまま届くわけではないのだから、烽火のどこがいけない。


 途中で雨が降ったりすると困るから、ルートは複数が宜しい。指輪物語的に山岳の稜線でやるなら、カラコルムとヒマラヤの8千メートル級を繋ぐ人類史上空前絶後のお祭り騒ぎとなるに違いない。シルク・ロードと万里の長城でもいいし、オリエント急行シベリア鉄道の沿線でもいいし、バルチック艦隊の航路を辿ってもいい。

 アフリカ大陸を縦断して南極を横切り、アンデスからロッキー、アリューシャン列島を伝うという手もあろう。我が国の周辺は領土問題だらけだが、この日に限り、両国関係者は共同作業を行わなければならない。できれば夜間ルートも確保して、国際宇宙ステーションから壮大な実況中継を行う。今から準備すれば間に合う。






(この稿おわり)







烽火の残り火でBBQも可  
(2015年7月19日撮影)








 あれもしたい これもしたい
 もっとしたい もっともっとしたい
 僕には夢がある 

           「夢」   THE BLUE HEARTS





















































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