おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

 雨  (第940回)

 たまには穏やかな話題を。関東は梅雨です。私の写真はほとんどが花や魚。正岡子規と同じ「博物好き」である。「自然」という単語は、英語のナチュラルの訳なのだろうか? どちらも母なる大自然のほうの意味と、アローン・アゲインのように「自然とこうなる」というほうの意味がある。

 古来、やまと民族は花鳥風月と呼びました(ただし、「かちょうふうげつ」と発音するなら漢語か?)。この四者はそれぞれ植物・動物・気象・天文という身の回りの美しいものの代表者なのだ。ただし美しい動物となると人類を除く。もっとも字面からすると美人は含む。


 漫画「20世紀少年」は、私が記憶している限りにおいて、二回しか雨が降っていない。何せアシスタントさんたちも描くのが面倒だし、読者も大雨だと見づらいので、特に必要がなければ漫画に雨は降らないのだろう。最初の降雨が観測されたのは2014年の放課後、コイズミが保健室で寝込んでいるうちに雲行きが怪しくなった。このため彼女はサダキヨ先生の自慢車に乗せられてしまう。

 間もなく雨が降り出してサダキヨが怒っていたころ、同じ保健室でサボっていたカンナは校長先生の車に乗せられた。こちらは校長の不用意発言により、両者も車も大変な目に遭う。雨の歩道でカンナが泣き叫ぶ姿が印象的であった。もっともこのあと、介護施設でカンナがサダキヨとコイズミに会ったとき、通り雨はすでにやんでいた。

 これで助かったのである。降り続けていればサダキヨは屋上に上がることなく、コイズミも後を追わなかったはずだ。ラッキーだったのはヘリコプタで小泉響子を救出に来たヨシツネ隊長であり、最短時間・最短距離で彼女を拾った。それにサダキヨとカンナに運命の再会をしている。


 二度目の雨は2015年、東京の広域に降ったらしい。”ともだち”が素顔でうろついて回った日だ。傘がない。それなのに少なくとも中目黒、西麻布、新宿、議員会館は歩いたのだから、傘もささずにずいぶんと濡れたことだろう。夜目遠目笠の内とも申します。よほどあの平凡なお顔を見せたい事情があったのでしょう。

 他の登場人物も、レインコードの準備を怠らなかったユキジと、議員会館でヴァーチャル・アトラクションの理科室で遊んでいた万丈目以外はずぶ濡れであった。なお、雨という言葉ならばCCRの「雨を見たかい」に出てくる。見たよ。

 他に雨関連では、テルテル坊主も出て来た。顔がない。この漫画のテーマの一つである。終盤にはアフリカの大地に雨乞いの場面もありました。おそらく雨が降ったであろう後の光景として虹も出てきました。


 傘といえば、子供のころ森進一がテレビで歌っていた「おふくろさん」の歌詞に不思議な点があった。母親をおふくろと呼ぶのは別に問題ないとして、自分の親になぜ「さん付け」をするのであろうか。すでに「お」という丁寧語が頭についているのだ。半世紀が経過したが、この疑問はまだ解けていない。

 それにしても「世の中の傘になれよ」とは、何という素敵な命令であろうか。うちの親からは、逆さに振っても出てこないな。世の中の傘とは何か。この歌詞の前に「雨の降る日は傘になり」とあるが、まさか世界の雨除けになれと仰っているのではあるまい。深遠である。


 長篠の戦。武田勝頼三河に侵攻してきたが、いつもは電光石火で鳴る織田軍団が動かない。長年考えてもその理由が分からなかった司馬遼太郎は、会談の際、海音寺潮五郎の見解を問うた。さすが海音寺先生、ただひとこと「梅雨が明けるのを待っていたんでしょうなあ」とつぶやいたらしい。

 司馬さんは、まさに雨雲の裂け目から日が差し込んでくるような感激を覚えたと、どこかの作品で書いていたのを覚えている。世界で初めてだったのではないかといわれる信長の鉄砲隊による射撃が行われた当時、鉄砲といえば火縄銃だ。導火線が濡れては使い物にならない。


 おそらく雨ほど人類の戦争史に影響を与えた気象現象はあるまい。野宿が続くと武士は敵よりも雨を恐れたと聞く。風邪を引けば体力が落ち、そのまま命にかかわるからだ。信長はそのメジャー・デビュー戦、桶狭間で確か豪雨の中、今川軍を襲ったはずだ。ロジェストウェンスキーは梅雨が待てず、天気晴朗の真昼間に日本海を横切ろうとして失敗した。

 ちなみに私の出身地は静岡で、今川家はそこの守護・戦国大名であった。大河で信長が登場するたびに義元が死ぬ。あれほど数多く戦死してきた大名もあるまい。少年家康が今川の人質になっていた寺院は実家から歩いて行ける距離にある。静かで清潔なお寺です。





(この稿おわり)







梅の実が成るころ雨は降り続く  (2015年6月20日撮影)






 Rainy days and Mondays always get me down.

   「雨の日と月曜日は」  ザ・カーペンタ―ズ


























フィリピン海、沖の雨(2015年7月18日撮影)

















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