おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

往生際 (20世紀少年 第866回)

 今日は筋の展開から少し離れて一休み。今後のために復習します。”ともだち”の往生際についてである。フクベエの往生際は悪かった。「やだ」を3回も言っている。倒れた際に理科室の装置や実験道具も壊した。

 もっとも、いきなりピストルで撃たれて、まだ少し話せるという状況に置かれたら、私も動転して何を口にするかか分からないだろうな。でも、世の中そういう人間ばかりではないのだ。


 ロサンゼルスで暮らしていたころ、ウィルシャー通りという広い道路があり、交通に便利だったのでよく車で走った。今はもう取り壊されてしまったらしいのだが、当時この道沿いに「The Ambassador Hotel」というホテルがあった。

 第12回目のアカデミー賞の授賞式は1940年に同ホテルで行われている。小さいころ大好きだったコメディアンのボブ・ホープが司会役。この年の作品賞と監督賞は「風と共に去りぬ」がさらっていった。


 このため、目を疑うような作品群が落選している。「駅馬車」「嵐が丘」「チップス先生さようなら」「スミス都へ行く」「オズの魔法使い」等々。駅馬車ジョン・ウェイン出世作で、彼は老後、ビバリーヒルズのホテル最上階で愛馬と共に暮らしていたと現地で聞いた。馬...。

 ちなみに、米国で「ビバリーヒルズ」と発音しても全く通じなかった。最初の「Be」にアクセントがあるので、「べヴァリー」と言わないと分かってもらえない。ついでに、ハリウッドも通じないことがあった。私は「L」や「W」の発音が苦手で、「one」さえ通じなかったことがある。


 私の映画好きは両親の影響だが、うちの親は「あんた達は恵まれている。ぜいたくだ。昔は映画ぐらいしか楽しみがなかったのだから」と子供のころ散々聞かされたものだ。毎年いくつもこんな映画を観ていて何が「映画しか」だ。ぜいたくなのはどっちだ。

 まあいい。このアンバサダー・ホテル(浦安のディズニーとは関係ない)で、1968年に大統領候補だったロバート・ケネディーが射殺されている。撃たれた直後の血にまみれた写真をテレビや新聞で散々見せられたが、あんなショッキングなショットは今では報道されないだろうな。


 LAで働いていた1988年、この暗殺事件の20年後の同じ日、ロサンゼルス・タイムズ紙の朝刊一面に囲み記事が載った。取材を受けていたのは、あの日、撃たれたボビーに最初に駆け寄ったホテルの従業員であった。子供のころ私が見た写真に写っていたかもしれない。

 記事によるとその従業員が抱き起したとき、ロバート・ケネディにはまだわずかに息があったそうだ。声をかけるとロバートは最後にこう言って息を引き取ったらしい。「他の皆は大丈夫か」。


 もしももしもって言ってたらキリがないが、ボビーが大統領になっていたら世界はもう少しまともになっていたかもしれない。ともあれ、この漫画では人殺しが世界大統領になってしまった。

 彼の往生際はどうだったろうか。彼の場合は暗殺ではなく交通事故だったが、急死であることや少しはお喋りができた点で先代と同様である。最初にケンヂがマスクを剥がそうとして、遊びが終わっちゃうと言っているのはさすがに見苦しい。


 しかしその後は比較的まともで、マルオにお前は誰だと言われてケンヂが知っていると答え、最後に「あの歌」をリクエストして聴きながら死んだ。特別路上ライブだ。悪くない。

 第22集でこの”ともだち”が余りに激しくケンヂに対して怒りをふつける場面があって、憎しみの対象という印象が大変強いにも拘わらず、この最期のシーンを改めて読んでいたら、彼がケンヂに対してどれ程の悪感情を抱いてきたのか、よくわからなくなった。


 それにしても、ケンヂが解釈した通り「あの歌」が「ボブ・レノン」だとしたら(第22集第2話のタイトルは「最後の歌」になっているから、多分そうなのだろう)、いつから”ともだち”はこの歌がケンヂの歌だと分かったのだ? 

 これが遠藤健児の作品であることはカンナと秘密基地の仲間、蝶野刑事や春波夫先生ほかケンヂに近い人間だけだったはずだ。死んだはずのテロリスト(円卓会議では他の幹部も死んだはずだと言っていた)という扱いのままなのだから、そう簡単に口外できない。


 一般の人が「ケンヂ」という者の作品であることを知ったのは、第22集でDJコンチが「ケンヂ、聞いてるか」「幼なじみ、裏切るな」と涙のリクエストをしたときであるが、すでに世界の終わりを宣言している”ともだち”がのんびりラジオなんか聴いているだろうか。

 ともあれ曲は知っていた。歌手は声で分かったか。多分そうだろうな、ずっと前に。コンチのラジオ局が爆破されているのだから。だからケンヂが現れても驚かなかった訳だ。相手がいるのを知っていたから遊びましょーも言えたのだ。

 瀕死の重傷を負いながら、死ぬほど憎んでいる相手に、歌を歌ってくれとは頼むまい。彼もロックが好きだったのだろうかなあ。それならニセの校庭で遊んでなんかいないで、カンナのフェスティバルに行けばよかったのに。



(この稿おわり)




いつも日の出の写真なので、今回は趣向を変えて月の出。ツリーの左上の星はたぶん獅子座のレグルス。
(2014年3月18日撮影)





 I love the music and I love to see the crowd,
 dancing in the aisles and singing out loud.

                ”Rock and Roll Fantasy”   Bad Company



追記でございます: かつてLAのFMラジオでこの曲を聴いていた時、普段は愛想の悪いDJがポール・ロジャーズを「One of the greatest vocalists of Rock and Roll」と紹介していたのを覚えている。私は彼やCCRのジョン・フォガティのような声が好きなのです。「バッド・カンパニー」というバンド名は、悪いともだちという意味。





































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