おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

決着のはじまり (20世紀少年 第804回)

 上巻の74頁で国連のプロファイラーが「これです」と差し出した紙には、「反陽子ばくだんで世界はほろびるだろう」と書かれている。この「○○だろう」という文末は「しんよげんの書」独特の文体であり、ケンヂがガキのころ書いた「よげんの書」は基本的に過去形または「これからどうなるのでしょうか」である。

 プロファイラーは「これが何を意味するのか調査します」と、特殊部隊の任務を簡潔に説明した。ケンヂは上手いこと、これを口実に流用している。「まずいんじゃないの?」と反論を始めた。奴のことだから軍隊なんかが入ったら、何かが仕掛けてあるんじゃないのかという。相手も黙ってしまった。


 さらにケンヂさんは「あんた方が行っても、意味わかんねえよ、絶対」と保証している。うん。まず、言葉が通じまい。文化も違う。秘密基地の楽しさも、ウルティモマンの思い出もない連中には訳が分かるまい。ケンヂが想定している過去の出来事の意味はなおさらだ。

 ということで、ケンヂは「俺が行かねえとさ」と説得して国連軍の承諾を得た。そのあとのことは物語の先々に譲るとして、今回はどうでもよいことを、もう一度、考えてみる。ケンヂはなぜ、ともだち歴の”ともだち”が、バッヂの件で関わりを持ったナショナル・キッドの少年と同一人物であるとの確信を得たのか。


 彼は一度、東京に戻ったと蝶野刑事に語っていたが、それはまだ西暦が残っていたころだ。そこで何を見たのかも語られていない。彼が記憶を取り戻したのは2015年の万博の開会式。そしてその直後にウィルスが世界中で大勢の人を犠牲にしたニュースだった。それ以降に知り得た情報と取り戻した記憶を組み合わせた結果、彼はあのババにとっちめられた少年が”ともだち”でるあるとの結論を得ている(としか、私には思えない)。

 でも、それ以降の情報って何だ? 唯一、私の「心当たり」としては、ともだち歴になってから出てきた地球防衛軍の制服が、ウルティモマンのモデルになったウルトラマンに出てくる科学特捜隊のユニフォームにそっくりだということだけだ。バッヂもそっくり。


 もしもサークル活動の初期から、フクベエとカツマタ君の顔が双子でも整形でも構わないがそっくりだったとしたら、そもそもこれまで出てきた”ともだち”なりフクベエ顔は、フクベエなのか違うのか読者には分からない。なんとなく違うと感じたらしい長髪を除けば、二人の区別は万丈目ですら付けられず、片方の肉親だったキリコとカンナだけが絶対違うと断言しただけである。

 そうなると間違いなくフクベエだろうといえるのは、赤ん坊を抱えたキリコと話していた頼もしいパパ、乳母車からカンナを抱き上げて小学校まで連れ去った男、理科室で死んだ男、この三名だけではなかろうか。1997年のクラス会に参加した男は、T.RexのCDを持っていた。血の大みそかのカセットを持っていたのは、地下活動を展開中に少女カンナと何度もあっているはずなのに、カンナは何の反応もしていない。本当にフクベエだったのか。

 
 歌曲「20世紀少年」に強い関心を抱いていたのは、フクベエではないほうの”ともだち”である。そして、もう一つ、「ケンヂくん、遊びましょう」もこの男が好きなセリフであることは、最後の放送の締めくくりからしても、ニセ太陽の塔の内部にしても明らかだが、フクベエがこれを口にしていたという確証はない。

 2000年のカスミガセキの地下でも、血の大みそかの夜も「ケンヂくん、遊びましょう」が聞こえてきたが、これはどちらの発言なのか分からない。どちらか分からない”ともだち”のうち、一番フクベエである確率が高そうなのは「ともだちコンサート」でカンナを話題にした男だという感じがするが、この派手な出番において彼は「遊びましょ」と言っていない。

 コンサート会場から追い出されたケンヂは、木の幹に隠れて忍者ハットリ君のお面を付けた少年が「遊びましょ、ケンヂくん」と言っている記憶を呼び覚ましているが、ベルトの先が外れたこの少年はカツマタ君かもしれない。少なくとも「ハットリ」のお面を除けば(これもケンヂの記憶にすぎない)、あまりフクベエらしくない。


 遊び相手を求めていたのはどちらだったか。ケンヂ少年はそれに気づいていたはずだし、大人ケンヂもそれを思い出して不思議ではない。それにフクベエは兵器としての細菌以外、理科の興味はなさそうだが、カツマタ君は理科室に化けて出るほど理科が好き。フクベエの「よげん」は教会とか万博とか大統領とか現世的なものばかりだが、カツマタ君のは火星移住計画とか反陽子爆弾とか、「子供じみたSF」のようであった。

 ここまで勝手に考えを膨らませてみると、僕はコリンズと言って泣いていた”ともだち”は、フクベエではなかったかもしれないという気がしてくる。コリンズ中佐が気の毒だと言っていた少年は、お面をかぶっていたのかもしれない。さて正解が出そうもないし、漫画に戻ろうか。第4話の「子供のはじまり」は嬉しいことにユキジが主人公である。



(この稿おわり)








いずれも近所を散歩中にて (2013年9月27日撮影)














































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