おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

パンチアウト (20世紀少年 第867回)

 パンチアウトというボウリング用語は、この漫画を読むまで知らなかった。もちろん、それを成し遂げたこともない。カンナを救うべくオッチョが風を巻いて秘密基地目指し疾走しているころ、ケンヂはヴァーチャル・アトラクション(VA)の中で同じくカンナの身を案じて動揺している。

 さらに基地ごと踏みつぶされて「世界が終わる」ことも心配して脂汗を浮かべている。あいにく、第一報をカンナに届けてくれた万丈目は、それだけで満足してVAを去ってしまった。


 ケンヂは自分で知らせに行くほかないと判断し、どうやったらここから出られるのかと少年ケンヂの両肩をゆすっている。「出るってどこから?」と少年の反応は至って現実的であった。

 やはり苦しいときは神頼みに尽きる。ケンヂは背後から「10フレーム目まで勝負がもつれこんだ場合」という神様のおごそかな声を聞いて振り向いた。「もうやることはだたひとつだ」と神様は言い切る。ここまでの情報だけで「10フレーム目まで勝負がもつれこんだ」ことを理解するとは、さすがVAでも神様は神様だ。


 神様はボウリングをたとえ話に用いるのが好きで、例えばコイズミにはスネークアイを引き合いに出して、ケンヂの奮闘を称えている。そのケンヂの自宅兼コンビニが焼け落ちたときも神様はケンヂを自ら助く者と認定したようで助けている。「よげんの書」を発掘した夜のことだった。

 あの焼け跡で神様が声をかけたとき、ケンヂは無視して通り過ぎようとした。しかし決戦のときのためにとレーザー銃を託されて、ケンヂは神様と向き合った。俺、勝てるかなと問うケンヂにストライクを狙って投げなけりゃ始まらねえと神様は指導している。初登場のときもホームレスたちに同じご宣託を垂れていた。


 VA神によると今回ただ一つのやることとは、「三つ連続ストライクを出して、パンチアウトするだけよ」という助言であった。ケンヂは「パンチアウト...」とつぶやいた。この言葉の意味を知っていたか、あるいは曲解したのか分からないが、神様に意味を確認することなく立ち上がった。

 そして両耳のあたりをつかんで、「うう、おおお、パンチアウト」と騒ぎ出した。かつてはVAでヨシツネがつぶやいた「万丈目」という言葉が現実のステージにいるヨシツネの口からも漏れたが、今回はケンヂの行動が仮想から現実にシフトしている。


 さあ、驚いたのは様子を見守っていた国連の皆さんだ。血圧・脈拍が急上昇。中の一人が「ヘッドマウント・ディスプレイ」(英語の普通名詞です)を外そうとしていると慌てている。

 強制終了すると脳内メモリーに異常が発生するらしいが、パンチアウト方法を使うと記憶が断片的に順不同で蘇るらしい。下巻の108ページ目に描かれている細切れの絵の数々は、ケンヂの脳裏に浮かんだ思い出なのだろう。

 
 忍者ハットリ君のお面をつけた少年の「ケーンヂくーん」という声。これは誰だろう。お次は、秘密基地竣工時のヨシツネとマルオ、オッチョとケンヂの楽しそうな騒ぎ。

 神社の階段で「俺達も月面に旗を立てよう」と誘う1969年のドンキー。彼とこの2ページ前に出てくるモンちゃんは、これが最後の登場である。戦って死んだ男たち。作者によるレクイエムであろう。


 続いて二つ残ったバッヂと店番のババ。本当にバカよと念を押す涙のユキジ。私は死にましたと3回まで数えているケンヂ。最後のナショナルキッドは子供のころの思い出なのか、それとも先ほど見たばかりのノッペラボウか...。

 ステージ上のケンヂはヘッドギアを強引に外して吐血した。救護班が呼ばれる。ケンヂは「正義は死なないのだ」と何十年ぶりかで銀玉鉄砲の遊びから卒業したときと同じ宣言をした。

 とはいえ、死にそうな感じでもあり、プロファイラーも何ということだと呆気にとられている。国連軍が友好的でないことは我々も知っている。まずはこの連中を説き伏せなければならないのであった。



(この稿おわり)





"The Eagle has landed..."

Crew

Neil Armstrong
Commander

Edwin E. Aldrin Jr.
Lunar Module Pilot

Michael Collins
Command Module Pilot

 (以上、出典はNASAのサイト)



 明日は何が可能になるのだろう?
 月への移住、火星旅行、小惑星上の科学ステーション、異文明との接触...
 今は夢でしかないことも、未来の人には当たり前になるだろう。
 だが、こうした遠い惑星探検に我々が参加できないことを落胆することはない。
 我々の時代にも、宇宙への第一歩を記すことができたという幸運があったのだ。

                       ユーリ・ガガーリンより、ドンキーへ

 (以上、大半の出典は独立行政法人科学技術振興機構のサイト)













































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