おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

さすらいのユーレイ万丈目 (20世紀少年 第816回)

 どうでもよろしい雑談から始めます。日本でのカラーテレビの配信は、私や浦沢直樹氏や皇太子殿下が(この順番で失礼はないだろうか?)生まれた1960年に始まっている。テレビはその前年の両陛下のご成婚から1964年の東京オリンピックにかけて大いに普及したらしい。でも前にも書いた通り、私の実家のテレビは1970年までポンコツ白黒テレビであった。

 ということは東京とメキシコのオリンピックも、ウルトラマンもスーパージェッタ―ほか数々のアニメも、全て家では白黒で観ていたことになる。新聞も白黒だった。初めてカラー写真を見たのは読売新聞の夕刊に載っていたもので、今はかなり色あせてしまったと聞く高松塚古墳の壁に描かれた古代の女たちの色鮮やかな衣装だったのを覚えている。朝鮮系の服装だと当時、話題になったのだが、今そんなことを主張したら何を言われるか分からないな。


 テレビでカラーの映像を観はじめたのは仮面ライダーのころからだ。初代はバイクに乗っているうちにベルトの風車が回って変身するという趣向で、あれでは間違ってスピードを出し過ぎたら、意に反して変なところで変身してしまうのではないか。

 変身だけなら周囲を驚かすだけで済むだろうが、ウルトラマンのスぺシューム光線はどうか。あれは両腕のひじを曲げて交差させるだけであり、車の運転中とか着替え中とか(まあ、この二つはウルトラマンには縁がないだろうが)、日常生活のふとした弾みで光線が出てしまったら大惨事になりはしないか。あれを浴びて生き残ったのはアントラーゼットンぐらいだろう。


 閑話休題。「俺を殴ったの、おまえだろ」とケンヂに声を掛けられて、暗闇から革靴が歩み出た。「へー、ちゃんと足はあるんだ」とオバケにこだわるケンヂ。「私を殺しに来たんだろう」と足は言った。そもそもヴァーチャル・アトラクション(VA)の中まで殺しに来ることそのものに意味はあるのだろうか。VAに入った者がVAの中で死ぬと現実の世界でも死ぬのでなければ、このセリフは無意味であろう。

 生前の万丈目はともだち府の室内でVAを始めたのだが、そのとき彼が恐れていたのは出し抜けに正体不明になってしまったフクベエではない”ともだち”であって、ケンヂではなかったはずだ。近年のケンヂの行方も外見も知っていたかどうか分からないと思うのだがギターと帽子で分かったかな。敵と言えば敵だが、本当は単なる八つ当たりで暴力を振るったような気もする。殴られ損です。


 ケンヂはスーパージェッタ―の歌など歌って深刻な場を茶化したり、でも自分はジェッターじゃないんだとのんびり独り言など言ったりしている。最早この相手が有害ではないことを知っているのだ。この世界からの出口が見つからないと背広姿の男が言った。「だろうな」とケンヂは訳知り顔で、ガキ共にオバケ扱いされているぞなどと無駄話をしてから、ようやく「情けねえな、あそこまで行った人間が」と話し相手を務め始めた。

 先方は焦っている。「助けてくれ、現実の世界に戻りたい」と言うのだが、殴っておいて今度は助けてくれかとケンヂは素気ない。ところで通常、一人で独力でVAに入った者は、どのようにして現実の世界に戻るのだろうか。それを知らずに来るはずがない。システムに詳しい者は「出口」を見つけられるはずなのか。現実の世界で事件事故があると、入ったままの本人は調子が狂うのだろうか??

 
 「無理だよ。あんた、もう戻れない。現実の世界じゃ、死んじまったんだから」。ケンヂってば、容赦なくそんなふうに言っている。「何だって...?」とダブルのスーツに議員バッヂをつけた万丈目は呆然としていなさる。私の知る限り、死んだ人間は生き返らない。だから、死後の世界がどんな感じなのかを語った証人は誰もいない。ところが日ごろの行いが悪すぎたか、万丈目は死後も意識らしきものが変な所に残ったまま、機械の中でさすらうことになった。

 死後も意識が残るとしたら、オバケというよりユーレイであろう。それはともかく、熱心な読者諸兄におかれては既にお気づきのように、万丈目はVAで遊んでいるうちに死んだのではない。ちゃんと現実の世界で意識を取り戻したのちに、高須に射殺されているのだ。本来、仮想世界とは縁が切れたはずの状態であった。ところが、中途半端なヴァーチャル万丈目が残った。正義は死なないそうだが、悪もどうして簡単には死なないダイ・ハード


 きちんとログ・アウトしたのであれば、こうはならないだろう。後のケンヂのように、強引に「パンチアウト」したのでないことは、VA万丈目の様子からしても明らかである。そうなると、何が起きたと考えるか。私の精一杯の想像力によると、高須はピストルを構えて万全の態勢を整えてから、現実の万丈目の心身が壊れないような方法で、強制終了させたのではなかろうか。

 殺す前に伝えたいことがあるなら、そうするに限る。単に撃ち殺すだけなら、VAにはまり込んだままで始末すればよい。どんな手段を使ったのか知らないが、案外、ヘッド・フォンを外しただけかもしれない。だが、高須は知らずや、万丈目の怨念はみごと幽霊と化して、ケンヂの到来を待つかのようにVA内をさまよって事態を更にややこしくすることになった。遊び場として作り上げたのかもしれないが、VAは歴代の”ともだち”をいろんな形で裏切ることになる。




(この稿おわり)




赤い鳥、小鳥、なぜなぜ赤い (2013年11月21日撮影)






幽霊の正体見たり枯れすすき  (2013年12月12日撮影)







 忘れたいのさ 悪いことを
 あの歌も あの夢も もう消えてゆく
 今はもう 消えてゆく

            「さすらい人の子守唄」  はしだのりひことシューベルツ
 












































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