おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

変な歌 (20世紀少年 第708回)

 このブログは右の欄に「ページビュー」という表示があって、アクセスの累積数が随時、更新されている。毎日確認しているわけでもないが、どうやら一日で200から300ぐらい増える。中にはキー・ワードというワナにはまって来てしまった方もいらっしゃるだろうし、その気で読んでくださるかたもみえるのだが、いずれにしても折角お越しになられるので、たまには役に立つ情報などを提供したいと思っている。しかしこれがまた難しい。

 結局は自分が調べてみたいことを選んで、調べたり考えたりした結果を書くほかない。さて、第21集の第6話では、高須の部下たちが二か所で「民衆」という言葉を使っている。ご承知のように日本の国会議員や官僚や報道機関は、民衆という言葉は公の場ではほとんど使わず「国民」である。国民国家を意識してのことか。ナショナリズムにも訴えやすい。

 
 例によって広辞苑をひくと、「民衆」とは簡潔に「世間一般の人民。庶民。大衆。」とある。ふむ。支配者層は国民にすり寄りたいときに限り、「庶民の暮らし」などと言い始める。私も自分は庶民だと思うが、なんか人に言われたくない感じがする。大学のときオルテガの「大衆の反逆」を読んで以来、大衆という言葉のイメージも悪くなってしまった。

 では、「人民」はどうか。広辞苑はこちらのほうが多弁で、「①国家・社会を構成する人。特に、国家の支配者に対して被支配者をいう。②官位を持たない人。平民。」である。「特に」の部分がまことに正直である。中国と北朝鮮の正式な国名に「人民」が入っているのは本来、人民(労働者階級)が主権を持つ国だからのはずだが、実体は見事に広辞苑的になっているようだ。


 通常、英語では「people」と訳される。オクスフォードの英英辞書によると「people」の意味は複数あるが、「the citizens of a country, especially when
considered in relation to those who govern them」が興味深い。この最後の「them」は最初の「the citizens」のはずなので、自らを統治する国民というような意味だろう。支配者に対する被支配者ではない。これで思い出すのはリンカーンによる民主主義の定義・理念である。あの映画、観たいな。

 中谷が使っている「民衆」は、「何やら民衆の中で変な歌が流行し始めており、報告書には宇宙人が発する奇妙な電波などと記されていますが...」というセリフで登場する。「変な」と言う以上、中谷も聴いたに違いない。民衆の間ではけっこう人気が出ているのに、支配者階級の心には届かないのだろうか。ケンヂがこれを聞いたら怒るだろうか、それとも喜ぶか。


 それより報告書が正しいなら、宇宙人は日本語をしゃべってカレーやコロッケが好きでギターを弾くのか。それならきっと友好的なんじゃないか。でも、これを聞いた高須の表情は暗い。この報告の前に関東軍の検問所が突破されたが情報は錯そう中とあり、この報告のあとで高須は「詳しく調べさせなさい」と命令しているから、たぶん高須は関所破りの犯人や変な歌の歌手がケンヂであることを知らない。だが歌と聞いて虫の知らせがあったのだろう。
 
 少し先走るが、これとは逆に”ともだち”はケンヂが東京に来たことを明らかに知っている。いつどこで、どのように知ったのかは不明であるが。さらに、これも先の話だが、リモコン泥棒の件でも”ともだち”の行動は高須の情報網の外である。彼女でも万丈目でも13番でもない誰かが”ともだち”の情報源になっているのだ。まあ、これはいくら考えても答は出ないようだから諦めます。


 高須の執務机は、ほんの少し前まで万丈目が座っていたもので、文房具まで同じ。たくさんの書類が置かれている。「まさに問題山積ね」状態なのだが、そのうちの一つは「火星移住手続の優先権」だそうだ。高須案は「万博入場回数の多い順」で、ワクチンの配布先同様、レベルは子供の発想、内容は悪魔の思い付きである。先の震災において津波原発事故で退避した方々の避難所や仮設住宅の割り振りは、さぞや大変だったろうと思う。いや、過去形で語るのは早いな。

 中谷は常識的で「よけいパニックをまねくのでは」と懸念を表しているが、高須は移民局の地球防衛軍の増員を指令している。日常的に役所を軍隊が守るとは異常な事態であろう。読者はともだち歴になってから、パニックに陥った人々の運命を嫌というほど見てきた。万博組最優先で、他は始末する気なのだ。非道である。タイタニックが沈んだときは女子供を先に逃がした。それが正義、人の道というものだろう。


 順序が逆になったが、執務室に入ったとき中谷がお茶をいれると申し出たところ、高須は「けっこう。口に入れるものは自分で用意するわ。私は今、大事な体なの。」と言っている。2ページあとで彼女はお腹をなでている。その3ぺージあとで「私、おめでたなの」とも言っている。これほど目出度くないおめでたもあるまい。医師が順調と言っていたのもこのためで、高須は妊娠しているのだ。

 ずいぶん昔のことだが、サダキヨの絶交についての相談が終わったあとで、万丈目は高須を「聖母さま」と呼び、人工授精で”ともだち”の子を産んでくれるんだろうと念を押している。あのときの高須はまだ万丈目の「ワイフ気取り」だったと思うが、「ルールを決めるのはあなたでしょう」と何の感情も見せずに受け入れていた。その万丈目を殺しておいて、でも彼のルールに従ったのだろうか。どうもそうではない感じがする。次回、考えます。




(この稿おわり)





みやこわすれ (2013年4月27日撮影)






 戦う君の歌を 戦わない奴らが笑うだろう
         
       「ファイト!」 中島みゆきさん   


































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