おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

三つ目の円盤と田村マサオの終わり (20世紀少年 第780回)

 第22集の233ページ目。オッチョが円盤の中で奮闘しているころ、夜の小学校の校庭では、かつての彼を「かっこつけしい」と呼んでいたサダキヨが、”ともだち”を羽交い絞めにしながら、「僕は、いい者だ」と自らに言い聞かせようとするかのように繰り返し語りかけている。

 喉元に鋭利な刃物を突き付けられた”ともだち”は身動きもできない。先日、古い時代劇の映画「修羅雪姫」を見ていたら(すごいネーミング。梶芽衣子主演。)、主人公の刺客は多くの場合、頸動脈を斬って即死させていた。椿三十郎も最後に居合で同じ戦法を使い、宿敵を一撃で倒している。急所中の急所なのだ。


 それにしても、この二人は少年時代、どうやら同じ仮面をかぶっていたらしい。それはなぜか、その場面でまた考えるとして、ここでもお互い同じように顔を隠しているが、お互いが誰なのか自明のことらしい。なぜ、”ともだち”が沈黙を守っているのか謎である。驚きのあまり声も出ないのだろうか。

 さらにケンヂも二人の正体がわかっている様子。「ナイフをよこせ、俺が悪かった」とケンヂはサダキヨに言っている。ケンヂはサダキヨにも謝らないといけないようなことをしただろうか...。確かに1997年ごろ散々、疑った相手ではあるが、相手はそれを知らないのでは? フクベエと一緒に落ちたのはサダキヨか? 悩んでも答えは出ないやね。


 ケンヂは謝罪したのち、「だから、もう終わりにしよう」と言う。何もかも俺が悪かったという意味かなあ。平謝りのときは、それが一番。サダキヨは「ケンヂ...」とつぶやくのみ。だが、この緊迫の場面は、どんでもない乱入者が起こした大騒ぎで予想外の展開になった。

 この前のページでは、放送局にいるコンチはマイクに向かって、「13番、応答しろ、13番」と古い名前で相棒に呼びかけている。13番こと田村マサオは札幌から飛ばしてきたヘリで再び宙に浮かんだらしく、コンチはどこを飛んでいるんだ、東京はどうなっているんだと尋ねている。隣でカンナとマライアさんが緊張の面持ち。


 「見えたよ、見えた」とマサオは応えた。続いて、「見せてやるんだ、”ともだち”に。こういうことだ、宇宙と一体になるとは!!」とヘリの操縦席で吠えている。こういうこととは、どういうことであろうか。そもそも、すでにマサオは”ともだち”がすり替わったことに、うすうす気が付いている。

 つまり彼のいう「あの方」ではないほうが今の”ともだち”のはずなのだが、とすると「宇宙と一体になる」という教えはフクベエではないほうから教わったのだろうか。念のため学生時代の田村が登場する第1集から第2集をざっと読み返したが、”ともだち”はコリンズだの癒しだのと御託を並べているが「宇宙と一体になる」は出てきていないようだ。そういえば初期においては、「完璧になると宇宙になっちゃうから」とも言っていた。


 ”ともだち”が「宇宙」好きだったことは確かで、ピエール師をマサオに”絶交”させたときも、宇宙が真の”ともだち”選びを始めたなどとほざいているし、海ほたるで13番は3番に向かって「宇宙からの指令」という言葉を使っている。宇宙とは何か、かつて話題にはしたものの広辞苑には余りにたくさんの意味が出ているので今回は省略。英語も宇宙を表す言葉は多い。

 私の理解に間違いがなれければ、天台宗における大日如来とは、これすなわち宇宙と同義であり、この世のすべては大日如来だから私も田村もその一部である。ついてはマサオも”ともだち”の妄言になど耳を貸さず、お遍路に出ればもっとよい人生が待っていたかもしれない。だが、いかんせん手遅れだ。彼は人を殺し過ぎた。


 ともあれ、いつかの時点で「宇宙と一体になる」のが彼の最終目的になったのであり、そのための手段として選んだのがヘリによる自爆テロであった。オッチョのケースでは不明であったが、こちらは後に分かるように落下地点に需要人物がひしめいており、大変な迷惑行為になった。

 ヘリコプターの羽根の音はとても大きい。それが聞こえて頭上の円盤を見上げる”ともだち”。マルオやケンヂが驚愕しつつ見上げる上空で、ヘリは円盤に突っ込んだ。ケンヂは瞬間的に事故が自分の真上で起きたことを悟り、「逃げろ、サダキヨ」と叫んでいる。もう一人は、優先順位が低いらしい。


 墜落した物体を間近で見ると、なかなか巨大な円盤である。少し離れて立っていたマルオと氏木氏は、衝撃で真後ろに吹っ飛んでいる。下にいた3人の運命は後に追うとして、田村マサオの最期は「21世紀少年」上巻の冒頭に描かれている。彼はヘリから校庭に放り出された。

 倒れたまま外れたメガネをかけなおして、「見えたよ、宇宙と一体になるとはこういうことだ」と結論を出した。そうなの? 遠ざかる記憶の中で、もう一度彼は自分がもはや13番ではなく、田村マサオであることを確認した。宇宙と一体になるとは真人間に戻ると言いたいのであろうか。


 しかし、彼はどうやら視覚を喪い、まるで絶対温度に近い漆黒の闇が広がるだけの深宇宙に放り出されただけのようだ。「俺は...何...」が最後の言葉であった。最後まで人殺しであった。それはそうと、どうして若いころから彼はあれほど癒されたがっていたのか。第1集以来、この疑問を先延ばしにしたままで、答えが出る前に本人が逝ってしまった。

 あれから現実世界で十数年が経過しているが、未だにこの国では「癒される」のが好きな人が多い。からかうつもりはないけれど...。おそらく日本列島ができてから、こんなに平和で安全な時代は稀有のことか思うのだが、みんなして傷だらけの人生なのだろうか。「オウム世代」を代表して申し上げる。気を付けないと、またカルトの時代が来てしまう。



(この稿おわり)






桔梗 (2013年7月7日撮影)





睡蓮 (2013年7月25日撮影)

いずれも拙宅バルコニーにて。


















































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