おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

神様の倒産 (20世紀少年 第719回)

 第21集第8話は「あれだけが残る」という題名。ボウリング場でブツブツ文句を言っているコイズミと、なんとなく弱々しい神様のコンビが久々の登場である。今は「昭和文化月間」だそうで、ボウリングもどうやら昭和時代の文化とされているらしい。試合は「第3回黒部杯スターチャレンジボウリング選手権大会」という。あいさつに立った大会名誉会長は黒部黒兵衛という物凄く腹黒そうなお名前だが、氏名だけで人を判断するのはやめよう。

 コイズミはまだボウラーとしての自覚が育っていないようで、開始前から「は〜帰りたい」と元気がない。しかも相変わらず神様に、中山律子さん扱いされて怒っている。ところが突然、神様は激しくせき込んで「俺はもう長くない」と言った。確かに彼の年齢は今の男の平均寿命を超えるぐらいのところまでいっているはずだが、自らの寿命も予知してしまったのか。コイズミは「へ?」と素敵な反応を示している。


 神様はコイズミに語った。「ただ一度だけでいい。見せてくれ、おまえの勝利のガッツポーズを」と。ガッツボウルだもんね。コイズミの表情は深い同情と悲しみに沈む。しかし、もう知り合って何年か経つ仲である。「嘘でしょ」とコイズミは見抜いた。「ちっ。ひっかからねえか。」と神様。彼は何とかコイズミにやる気を持たせたいのだ。

 もっともバレたのも当然、昨夜は前祝いと称して酒飲んで騒いだらしい。「飲まずにやってられっか。倒産した。」と神様は意外なことを言い出した。株で大損こいて、ガッツボウルのビルも人手に渡ることになったという。「バカじゃないの」とコイズミは20世紀少年的に叫んでいる。予言できるならボウリング・ブームの到来なんて言ってないで、「そういうことを予言しなさいよ」とコイズミはもっともなことを言う。


 でも神様の場合、予言と夢の境界線がはっきりしないのだ。しかたなく夢をかなえる次の手として、今日勝ったらオープン・カフェでアイス食わしてやると提案している。「アイスって、あたしは子供かー!」とコイズミは食ってかかっているが、このあたり浦沢マンガはよくできていて、すぐ前のページにケンヂら子供たちがジジババのアイスを食いに走っていく姿が映っている。神様は一歩譲歩して「じゃ、パフェだ」と言ったがこれも嘘だった。

 それより妙なのは神様の倒産である。神が死んだという宗教や哲学はあるが、およそ神様が破産したという神話など聞いたことがない。株で大損したというが、そもそも株主は有限責任であり、借にすべての投資先の会社が倒産したとしても株式の資産はプラスからゼロになるだけで、ビルを手放すような大借金ができるわけではない。生活費の問題は残るかもしれないが、神様はホームレスのベテランとして食っていけるではないか。
 

 本当に借金ができるほどの株式投資だったとしたら、ケンヂの父ちゃんがアズキ市場で失敗したように先物に手を出して巨大なポジションでも抱えていたか、金融機関から金を借りて投機したような場合だろうが、株欄を読んだだけで株価の動向を予知できる神様なのだから、現物を転がしているだけで十分儲かるはずである。神様は予知能力を失ってしまったのだろうか...。

 かつてユキジが神様を七龍に呼び出したとき、これはスポンサーになってくれとの要請であろうと私は推測した。では、ユキジたちの活動資金として株だけでは足りず、夢のガッツボウルまで手放したのか? でも今のユキジらにはヤン坊マー坊という別の大スポンサーがついているのだ。人手に渡ることになったと言っても、このあとすぐに出てくるが今のところガッツボウルのビルを使っているのはカンナたちである。どうもおかしい。


 これはコイズミ対策の罠か。ちっとも中山律子さんを目指さない彼女に発破をかけるべく、もう金はないと伝えてプロの道を目指すよう発奮させたか。実際、コイズミはこの直後に、優勝候補のマルオのような体系の女に、「かわいそうな子」とか「ついてない顔」などとののしられ、悔し涙を浮かべてレーンに立った。そして「あたしはあたしの手で、幸せをつかんでやる」と宣誓して投げた第一投は、神様もマルオ女も投げた瞬間に驚くほどの剛速球であった。

 結局、コイズミは優勝して黒部杯の巨大なトロフィーをもらって帰った。もっとも喜色満面の神様をよそにコイズミはクタクタに疲れており、トロフィーなんかいらないとぼやいているし、優勝の商品が万博の優待券5枚だけと文句も言っている。ともだちランドでの生き残り競争でもそうだったが、つい頑張ってしまうコイズミなのであった。なお、彼女が入手した優待券には、本物の大阪万博太陽の塔」が描かれている。



(この稿おわり)






大阪万博の入場券 (部分・当時の本物)










































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