おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

ボウリングの思い出 (20世紀少年 第401回)

 第1巻の174ページに、缶カラに入れることになる成人映画のポスターをヨシツネが壁から剥がすシーンが出て来て、次の175ページに「ボウリング場建設予定地につき立入を禁ず」という看板と、ケンヂの独白らしき「俺達の秘密基地がある原っぱは、ある日、突然、俺達のものではなくなった」というキャプションが出てくる。

 この時の原っぱは、まだ鉄条網で荒っぽく閉ざされたばかりだったので、どうやら秘密基地のメンバーは中に侵入し、基地のそばで解散式を行ったらしい(鉄条網をくぐるとき失敗すると大変な目に遭う)。第14巻の第2話「悪の大魔王」の冒頭にも同様の絵があるが、時間が経過しているようでもはや鉄条網ではなく、頑丈そうな鉄格子になっている(同内容のキャプションも「俺達」が、ヨシツネ的な「僕達」になっている)。


 もはや基地の仲間は中に入れず、ヨシツネやケンヂやマルオは囲いの外から、秘密基地を返せ、ボウリング場建設反対などとシュプレヒコールを挙げて市民活動をしているのだが効果全くなし。通りかかったオッチョは、仲間の誘いにも乗る気がしないようで立ち去ろうとするのだが、工事現場から聞こえた「社長」という声で歩みを止めた。

 このヘルメットをかぶった後ろ姿の社長は、正義の秘密基地を破壊した悪の帝国の大魔王として、ヨシツネの記憶に深く刻まれた。その大魔王が基地の跡地に建てた悪の殿堂こそ、いま目の前にそびえ立っているガッツボウルなのであるが、前に来たときはこんなのなかったと叫ぶコイズミを尻目に、ヨシツネはあっさりボウリング場に入っていく。


 けっこう流行っているねとコイズミは関心している。クーラーでほっと一息だ。1971年はボウリングの大ブームだったとヨシツネが言う。悪の殿堂はずなのに、ヨシツネの記憶では、彼もケンヂもマルオもオッチョも、ここでボウリングをやったらしい。子供は切り替えが早いからなあ。

 ボウリングの思い出と言えば、私の場合、1970年に実家が引っ越した後、天文少年だった当時、やっとで貯めた小遣いで天体望遠鏡を買った話から始まる。1973年だったと思う。西側は市街地で夜も明るいため、もっぱら東側の田園地帯方面の星空を眺めて楽しんでいたのだ。

 ところが、あろうことか、近所のその方角にボウリング場が建った。しかも、看板替わりの巨大なボウリングのピンが一晩中、ライト・アップされたのである。まさに悪の殿堂である。これには怒った。でも、一二回、ボウリングもやりました。すでにブームは去りつつあり、間もなくボウリング場は撤退して星空が戻った。


 別件。もう20年以上前になるのだが、私は50人以上が参加する大ボウリング大会の幹事を務めたことがある。幹事になった理由はそのボウリング会が、当時、私が働いていた職場の最大の取引先への接待であり、私はそのとき同取引先の担当者だったのである。いつもは100点ぐらいしか取れないのだが、その日はなぜか絶好調で、156点。生涯の最高記録であった。

 接待マージャンは、絶対に相手を勝たさなければいけない。ゴルフでも何でも、勝負事の接待の鉄則である。だが、これだけ大規模なボウリング大会となると、他人のスコアなんて分かる訳がない。だがそれはビジネスの世界で言い訳にはならないのだ。

 担当者兼幹事の私は、その日、無残にも優勝してしまい、自分で準備した優勝賞品を獲得した。大顰蹙であった。そのショックのせいではないと思うが、そこの社長さんは去年だったか悪いことをして警察に捕まってしまった。折角の人生自己ベストなのに、二重に後味が悪い。


 ボウリング場内でコイズミはナンパされている。相手の青年の言葉づかい、チミ、パンチガール、ロンリー、アベック、ナオンというのは、さすがにもう私たちの世代すら使わなかったと思うな。またしても強引に仲間入りさせられたコイズミだが、生まれて初めての第一投で見事、ストライク。そのあとも投げるたびストライク。超人であろう。

 彼女は中山律子さんみたいと絶賛されるのだが、「誰それ」か...。最近はボウリングも立ち直って都内でも幾つか見かけているが、場内には中山律子さんの名前を知っている人がどれだけいるだろうか。このシーンに出てくるテレビの化粧品か何かのコマーシャルも遠い昔の思い出になった。彼女はバレーボールの選手だったが、小柄だったので諦めてボウリングに転じましたとご本人が去年、雑誌のインタビューで話してみえた。人間、何か幸いするか分からないよな、コイズミ。


 その彼女の投げっぷりを遠くで見つめる後ろ姿の男が一人。ピンストライプのスーツを着ている。手首のひねり、下半身の安定感、ナチュラル・フック、まさに天性のボウラ―だと呟いている。男はいきなりコイズミに抱き着き、レーンに舞い降りた女神だ、俺と組んで世界を制覇しようと大興奮状態に陥る。

 そのときまで、コイズミの大活躍も目に入らず思い出にふけっていたヨシツネは、彼女の叫び声を聞いて救出のため駆け寄った。そこに駆けつけた社員と思しき男たちがピンストライプを社長と呼んだのを耳にして、ヨシツネは、これこそ秘密基地を破壊した悪の大魔王その人であることを知る。だが、驚きはそれだけでは済まなかった。



(この稿おわり)



タイサンボクの花。背の高い木なので、下からしか撮れない。
(2012年6月24日撮影)




祝 ご生誕 (2012年7月1日、ご懐妊中に撮影)




小石川通りにて(2012年7月5日撮影)