おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

最後のページ (20世紀少年 第718回)

 一般に予防接種というのは、ウィルスや細菌など危ない病原体の毒性を弱くしたものをワクチンと称して注射や経口で体内にねじこみ、人工的に抗体すなわちその病気に対する免疫力をこしらえて、本物の病原体に感染しても発病しないようにするという寸法であるらしい。このため先日も書いたように、そもそも病原体を手に入れないことには、ワクチンの作りようがない。

 キリコは過去3回にわたりワクチンを開発したというのが私の理解です。第一段階はDr山根らと共に鳴浜病院で研究して培養に成功し、血の大みそか以降に使われた。このときのウィルスは後年のものと比べるとそれほど強力ではなかったようで、直接、溶液を浴びたらしい自衛隊の伝令もニューヨークのテレビ報道陣も、感染してからしばらく経って発症している。


 第二弾は2014年に彼女がポップさん夫妻に語ったところによれば、キリコはアフリカで試薬を作り、ドイツやアメリカで逃亡しつつ研究を重ねながら、ミシガン湖畔の工場で大量生産し始めたところを”ともだち”に没収されて、2015年に悪用されてしまった。このときのウィルスはアタッシェ・ケース状の噴霧器によりばら撒いたもので、ニュー・メキシコのダニー・ボーイがケロヨンに語ったところでは一週間ほど風邪のような症状が続いた後で全身の血が抜ける。

 三種類目のワクチンは第20集に出てきた最新作で、山根が作ったウィルスの進化形すなわち「最終ウィルス」に対抗すべく彼女が開発した「最終ワクチン」とも呼ぶべきもので、とりあえずキリコには効いて人類は勝ち始めている。最終ウィルスは第21集によると相当パワフルなようで、元火星移住局長は即死した模様だし、厚生省のお役人らしき男によればワクチンの開発も「ムリムリ」である。


 ところで、2003年に山根が開発した新型のウィルスは、2番目と3番目のどちらなのか。そのとき山根はこのウィルスに対するワクチンを開発するには10年はかかると予言し、実際、キリコは試薬の完成までに11年を要した。ではこのウィルスは2015年の2番目のものか? でも、そうするとキリコはともだち歴3年の東村山で、どうやって3番目の最終ウィルスを入手したのだろう。「絶滅。今度こそ、おしまい」という厚生省お墨付きの生物化学兵器を。

 高須がクローン研究の報告書とともにウィルス研究報告書も手にしているので、おそらく「Dr山根が開発したウィルス」の進化型の研究が進み、厚生省ですらお手上げなほどの猛毒ウィルスが出来上がってしまい、元火星移住局長はさっそくその人体実験に利用されたのかもしれない。だが繰り返すとキリコが遺伝子レベルまで徹底的に研究した進化型ウィルスの情報なり本体なりは、どうやって彼女の手元に届いたのだろう。最終ワクチンの開発にはそれが不可欠なのだ。

 
 こういうどうでも良いことを何日か考えた末に諦めました。勝手に想像して良いなら(いつもそうだけど)、”ともだち”が面白がってキリコに配達したというのはどうだ。荒唐無稽であるが、そもそもケロヨンが訝っていたように、なぜ”ともだち”はカエル親子やキリコを始末せず、東村山に放置したのか。「しんよげんの書」によれば、少し先走るがもうウィルスは登場せず、別の方法で世界は滅びる。それ以外は本当にどうでも良くなったのか。

 物語は再びフクベエの部屋に戻る。山根が「しんよげんの書」を持ってきて、「これの最後、見た? また、あいつが書いたんだよ」と話しかけているが、フクベエは漫画に夢中で面倒そうだ。「また、あいつ」ということは、先日「かせいいじゅうけいかくをはっぴょう」の予言を書き込んだのに、ページごと破り捨てられてしまったカツマタ君が、執念深く2度目の挑戦を図ったものとみえる。

 
 山根も理科好きだから今回の書き込みは前回よりさらに面白かったらしい。強引にフクベエに読ませている。次のページは真っ白だった。山根に言われてフクベエは最後のページを見る。さすがの彼も「え?」と言って表情を変えたが、「これはないよ」とスケッチブックを放り出してしまった。山根は追従笑いをしている。世界大統領は最強になって世界を征服する予定なのだ。それとは違うことが書いてあったに違いない。

 このページを破らなかった理由は分からない。書いた相手がいなかったので、これ見よがしに破るという意地悪ができなかったからか、破られないようにスケッチブックの裏表紙にでも書いたか。とにかく意識して最後のページを使ったということは、書き手にとっては最終予言なのだ。その子はフクベエの家の玄関先に立ち尽くし、中から漏れてくる「あいつわかってないよな」という嘲笑に耐えている。


 子供たちの声が聞こえてきて、少年は植木の影に隠れた。「ジジババにアイス食いにいこうぜ」と走りながらケンヂ。「サンセーのハンタイなのだ」と言いながらケンヂを追うヨシツネは天才バカボンが好きなのだろう。マルオは例によって遅れをとっている。お面の少年はこの時にこそ「ケンヂ君、遊びましょう」と追いかけていけば、もう少しまっとうな人生を歩めたであろうに。それができれば苦労はないと、私の人生にも思い当たることが山ほどあるけれど。

 これでいいのだと叫びながら秘密基地の仲間は走り去ってしまう。残されたカツマタ君は、これではよくないのだ。この最後のページに書かれた内容は、「21世紀少年」の上巻になって分かることになる。だがそれがわかった時はもう、事態は取り返しのつかないことになりかけていたのだ。第7話が終わる。危機は今そこに迫っているというのに、神様とコイズミはボウリング大会に参加しているのであった。



(この稿おわり)



バラが咲いた バラが咲いた 真っ赤なバラが... (2013年5月5日撮影)


 
  
 この書の預言の言葉を聞くすべての人々に対して、わたしは警告する。もしこれに書き加える者があれば、神はその人に、この書に書かれている災害を加えられる。
 また、もしこの預言の書の言葉を取り除く者があれば、神はその人の受くべき分を、この書に書かれているいのちの木と聖なる都から、とり除かれる。

  「ヨハネの黙示録」 第二十二章より




































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