おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

Capricorn One (20世紀少年 第716回)

 カプリコンというのは英語でやぎ座を意味するが、「Capricorn One」は昔の米英共作映画の題名であるとともに、このSF映画に出てくる有人火星ロケットの名でもある。今回は脱線ですが、一応、火星ネタです。若いころこの映画を見たときはコメディだと思って楽しんだのだが、昨年久々にDVDで観てみたら、なかなかもってシリアスで怖い物語なのだ。

 もっとも、若いころの自分が喜劇だと感じたのも無理はない程度に娯楽的でもある。全編にわたりジョークがあふれかえっているのだ。その一例をあとで挙げるが、その前にごく簡単にあらすじの一部をご紹介します。まだ観ていない方はご注意ください。舞台設定は近未来のアメリカで、人類初の火星ロケット計画で起きたトラブルがテーマになっている。


 カプリコン・ワンの打ち上げ直前に、宇宙飛行士の生命維持装置に致命的な欠陥が発見された。予算を切り詰めすぎたと責任者は弁明する。普通なら打ち上げ中止だろうが、大統領が来るかもしれないというほどの政治的セレモニーが準備万端整ってしまっており、宇宙当局はインチキをすることに決めた。計画通り打ち上げたと見せかけて無人のロケットを火星まで往復させ、その間、3人の宇宙飛行士は体育館みたいなところに閉じ込められて演技をする。

 往復にあたる時間帯は技師や家族との通信を行うフリをし、火星にいるはずの間は火星の地表のセットの上で「活動」する画像を撮影する。家族を人質に取られたも同然の飛行士たちは文句を言いながらも仕方なく協力していた。そして、ようやく無事、地球に戻るかと思いきや、大気圏突入時にカプリコン・ワンからの通信が途絶えてしまう...。


 宇宙当局がこんな猿芝居を決行せざるを得なかったのは予算の都合である。宇宙開発の予算がどんどん削られて危機に瀕しているのだ。だから何としても成功させないといけない計画だった。計画の責任者が飛行士たちに説明する予算削減の事情が傑作である。

 アームストロング船長らが人類初の月面着陸に成功したときのテレビ中継が、視聴率でテレビ・ドラマ「I Love Lucy」の「再放送」に負けたため政府が怒ったそうなのだ。事実かどうかは知らないけれど。この「I Love Lucy」は私が幼少のころ、「ルーシー・ショー」という名で日本でも週末に放送されていた。面白くて毎回楽しみにしておりました。

 ルーシーの声優は高橋和枝で、刑事コロンボの小池さん同様、本物よりも話が上手い(少なくとも日本人向きに)かもしれない。実家のポンコツ白黒テレビがカラーに替わってようやく複数の民放を見ることができることになったころ、高橋さんは「サザエさん」で磯野カツオをやっていた。永井一郎近石真介高橋和枝


 映画「カプリコン・ワン」の主演はエリオット・グールドで、若い世代にはオーシャンズの仲間として馴染みがあるだろうが、私にとっては映画のほうの「マッシュ」。あのバカらしさ、猥雑さ。準主役級の宇宙飛行士の一人として、O.J.シンプソンが出ているのが時代を感じさせる。また、刑事コロンボの後任、刑事コジャックのテリー・サラバスによる曲芸飛行も見ものだ。

 3人の宇宙飛行士は、カツマタ君やサダキヨのように死んだことになってしまった。本当に命が危ない。あわてて「ロケ地」を脱出し、誰か一人でも生き残れればと火星の地面のような砂漠の中で三方向に分かれての決死行。その間、主人公は女遊びなんぞしていたのだが、途中から巻き込まれて正義の味方になってしまう。


 本作はB級映画のお手本のような作品で、ネットの映画評を読むと手厳しいものが多いが、こういうのを楽しめないと映画ファンはなかなか務まらないと思うな。少なくとも古い映画はリアリティーなんて二の次で、2時間ほど楽しい思いをすればいいだろうという前提で作られているのだから。この作品は以前に小欄でも話題にしたアポロ11号疑惑をヒントにしたものだ。茶化したのか風刺したのか今もって分からん。

 さて、第21集に戻るかー。円盤は飛び回るし、世界大統領は国際社会に向けて火星移住を推奨するしで、火星移住局も押すな押すなの大賑わいになっている。まず整理番号を受け取って、次に登録をする必要があるらしい。そうとうな順番待ちなのだろう。私だったら、もう歳も歳だし静かになった地球で宇宙人でも何でもいいから待つだろうな。日本沈没の田所先生みたいに。私はこの国が好きだから。




(この稿おわり)



近くにある道灌山にて、江戸時代の風景。歌川広重画。
(2013年5月5日撮影)

 
































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