おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

炎とたたかう人たち (1080回)

 真珠湾の話の続きです。長い。最初の挨拶が終わってから、オバマ大統領の演説は外交から離れ、戦場を主な舞台とする真珠湾列伝のようなものになっている。

 その日、ものを言ったのは軍服を飾る階級章ではなかった。大統領は言及していないが、民族でもなかった。そして、当時のハワイに15万人ほどいたという日系人も巻き込まれた。


 大統領が最初に紹介した人物は、名前が明らかでない。アフリカ系アメリカ人というから、おそらく黒人で、厨房の清掃役専門ということなので軍属か。戦闘が始まり、まず彼は上司の司令官の安全を確保した。
 
 司令官がこの事態において安全な場所に避難していて良いのかと思うのだが、怪我をしたかな。追求はやめよう。掃除係は、足手まといから自由の身となり、高射砲を撃ち始めた。


 あれは、皿洗いのお兄さんでも撃てるのか。奇襲された方は練習用の弾やボトル・アクションまで撃ったというから、獲物を選んでいる暇などなかったのだな。この人物らしき若者は、映画「トラ!トラ!トラ!」にも出てくる。

 高射砲の話は子供のころ何度か聞いた。憎きB29には届かなかった。飛行高度が高すぎた。敵も承知の上で迷彩色も施さず、生のメタル・カラーで空襲に来る。オアフ島の清掃係は弾薬が尽きるまで撃った。そのあとが分からない。なぜ大統領はご存知なのか。地元に伝わる話なのだろうか。


 今回は私の都合で一人だけ順番を替え、次は民間消防士のハリー・パンのエピソード。「Pang」という姓で想像できるように、彼は中国系のアメリカ人だったと、地元ハワイのテレビ局がニュース番組で伝えているのを観た。

 そのニュースは、この両首脳による式典の三週間ほど前、パール・ハーバーで行われた真珠湾攻撃74年目の儀典に際して報道されたもので、ホワイトハウスはそれを地元メディアから情報収集したのだろうか。まあ、いつも監視しているか。


 パン消防士が当日勤務していた消防署は今も真珠湾にあり、現役の後輩が、大自慢でその日の出来事を語る。消防車第6号に乗った大先輩たちは、軍事基地に駆けつけた消防の一番乗りだった。彼らは先ず、火勢が最も激しいヒッカム飛行場に向かったらしい。

 ヒッカムの航空基地は、かつて私が利用したホノルルの国際空港に今なお隣接している。その日、職業意識と行動力が、三名の消防士の命取りになった。児島さんの「太平洋戦争」によれば、第一次飛行隊も第二次飛行隊も、米軍の戦闘機とその格納庫を擁するヒッカムが第一攻撃目標の一つだった。

 
 彼は軍用機の火災を食い止めるため、貢献の限りを尽くしたと大統領のスピーチは多くを語らない。消火用ホース係のハリー・パンは撃たれて死亡、同僚も二名なくなり、何人かが負傷した。ジョージ・ワシントンが考案したという軍功の勲章パープル・ハートを受賞した消防士は、これまで彼らだけであるという報道内容だった。

 レイ・ブラッドベリの「華氏四五一度」の主人公は職業が消防士で、英語では「fireman」だった。SF小説は、このスペリングを上手く使った構成で、かつての消火係が、今や焚書係になってしまい、ファイアマンは悩む。

 だが、この日の大統領は「firefighters」と呼んだ。私はファイターという言葉が好きだな。ルービン・カーターも、映画「ザ・ハリケーン」の中で、ファイターと呼ばれていた。


 次の話は前にも書いたので繰り返しになる。東日本大震災津波の被災地で、現地の方が撮影されたビデオを拝見する機会があった。「地元の消防団員が何人も亡くなりました」と、説明役のお方に話を伺っていたら、先ほど自分たちが歩いて渡った海岸どおりを、赤い消防車が右から左へ走り抜けた。

 大津波の行く先に向かっている。それまで、殺到する津波の凄まじさに悲鳴を上げていた聴衆は、案内役の「あの消防の皆さんも、みんな亡くなりました」という説明をお聞きして黙ってしまった。

 2012年3月11日、震災一年目の追悼祭で、被災者に続き、陛下のお言葉に出てきたのが消防団員だった。別の機会に「消防のみなさん」というのも聞いたことがある。
http://www.kunaicho.go.jp/okotoba/01/okotoba/okotoba-h24e.html#D0311


 アメリカの消防にも、つらい歴史がある。2001年9月11日、テロの直接の被害者であるハイジャックされた旅客機の乗客と、飛行機が衝突したビルにいた方々についで、死者が多かったのは現場に駆けつけた消防士だったはずだ(記憶ですが)。

 まさか、あのビルがあんな風に頭から崩れてこようとは思いもしなかっただろう。2012年のスーパーボールで、クリント・イーストウッドを登用したクライスラー社のCM、”Halftime in America”にも消防士らしき男たちが出てくる。

 あの蛍光色を使った腕章と、鉄兜のようなヘルメット。後ろに写っているクライスラー製と思われるメタリック・シルバーの巨きな車は消防車だろうか。アメリカ人は語り継ぐ。まとめて神さま扱いになどしない。この原稿は、伯父が海兵隊に殺されたテニアン島で書いている。






(おわり)







何だって世界に一つしかない。
(2017年1月4日撮影)









 ウルトラセブン ファイター セブン
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 倒せ 火を吐く大怪獣