おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

Reborn to Be Wild (20世紀少年 第583回)

 第17集の129ページ目、北方検問所は、同時に二つの敵対集団の行動に直面してしまいピンチを迎えている。まず一方は大勢の侵入者である。他方は村人の反乱であるが、いずれも同じ曲に触発された集団行動であることが興味深い。

 どうして「グータララ、スーダララ」にこれほどの扇動力があるのか私にはよく分からないのだが、いずれの集団もこの箇所ばかり繰り返し歌っている。歌いながら村の人たちは搾取された白米その他の食糧をチョージャ屋敷から楽しそうに運び出している。日本史に類例を求めれば「打壊し」のようなものだが、ここの村人はヴァイオレントではない。


 他方、コンサートはどこですかーとヒッピーたちも笑顔であり、ケンヂを見つけて喜んでいる。怒り心頭の芹沢司令官も、かつての「ともだちコンサート」でのケンヂと同様、群衆に胴上げされてしまって万事休す。かくて検問所はマハトマ・ガンジーのような非暴力主義者たちにより落城した。

 第7話のタイトル「アンコール、アンコール!」は、ツアーをやる先々から付いてきて、ようやくケンヂに追いついたヒッピーたちの要求であるが、ケンヂは「オー、イエーじゃねえよ。今日はもうおしまいだ」とつれない。次のコンサート会場を訊かれたているが、たぶん向こうのほうだと極めていい加減である。このぐうたらさに価値があるらしい。

 
 蝶野巡査長がケンヂのバイクを運んできてくれた。警官はすっかりファンになってしまったようで、「あなたはすごいです」と感激がおさまらない様子であるが、ケンヂは「何が?」とほとんど無関心。蝶野巡査長は「歌を歌っている人間は撃たれない」と説明した。彼もそれを実行して結果的に撃たれなかったからなー。

 だが、ケンヂは「バーカ」と言った。無数の人々が20世紀にケンヂのことを「バカ」と呼んできたのであるが、上には上がいるということなのだろうか。「んなわけないだろ。実際に撃たれてんじゃねえか」と、応急措置がしてある脚の怪我を見せている。歌なんか歌ってたって、撃たれるときは撃たれるそうだ。なんか頭韻を踏んで遊んでいるような感じ。


 思春期にオッチョはロックから音楽へと移ったそうだが、私は逆で映画から入った。それまで怪獣映画や親の影響で一緒に観たスペクタクル映画(十戒とかベンハ−とか)から、好みがニュー・シネマに移った。その代表的な作品名は、このブログに幾つも出て来たが、まだ「イージー・ライダー」は話題にしていなかったな。

 バイクの旅に出つ直前に、主人公が腕時計を外して、地面に投げ捨てる場面が印象的であった。時間に縛られる生活とはオサラバなのだ。挿入歌ではステッペン・ウルフの「ボーン・トゥー・ビー・ワイルド」が恰好よかった。


 ともだち暦3年に再登場したケンヂは、以前と比べずいぶんワイルドな雰囲気をかもし出している。3年間ほど、どこでどういう暮らしをしていたか殆ど不明であるが、まさかいつもいつも田辺のばあさんみたく親切な人にご馳走になっていたわけではあるまい。オッチョと同様、野宿だろう。

 ドルンと一撃、バイクのエンジンをかけて「じゃあ、行くか」とケンヂは言った。「行くってどこへ」とペテロのように問う蝶野巡査長に、ケンヂは「家に帰るんだよ」と答えた。僕は今、家路を急ぐのだ。家は東京にあるとケンヂはいう。思わず警察の自転車でバイクを追いかける蝶野巡査長は、後に逃亡警察官として指名手配されることになる。


 後ろ姿の二人はピーター・フォンダデニス・ホッパーのようだ。ロード・ムービー。長い一本道が二人の前に伸びている。かつて、ケロヨンが車で走ったニューメキシコのルート66のように。ケンヂはこのツアーを始めるときに「先を急ぐ」と言い遺したそうだが、自転車に合わせてゆっくり走ってくれるだろうか。旅は道連れ、世は情け。

 この次のページも、似たような荒野の一本道が描かれているが、ポンコツのオープンカーを運転しているのは、この場面の少し前に本巻で初登場した謎のディスク・ジョッキーである。彼のエピソードも含めて、オッチョとカンナに話を戻そう。



(この項おわり)




初音 (2012年12月22日、旧谷中初音町にて撮影)


 We'er on a way home, we're on a way home,
 we're on a way home, we're going home.
 You and I have memories
 longer than the road that stretches right ahead

   家に帰るところなんだ 家に帰るんだ
   二人が分かつ思い出は 
   目の前に伸びる一本道よりも長い

   ”Two of Us” by The Beatles

















































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