おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

違うヴァージョン現る (20世紀少年 第578回)

 オッチョはサナエにカンナの消息を聞いた後、同行の男たちにサナエを教会に連れて行くよう頼んでいる。第18集の16ページ目。一旦こうと決めたら、オッチョの行動は迅速なのだ。オッチョはサナエに幾つか説教をしている。「昨日から起きたことは忘れるんだ」。あれ、サナエはどこかで一泊したのだろうか。地下の「のれん街」か?

 続いて、デモに参加するな、もうこんなことに巻き込まれるな、普通に生きるのは大事なことだと説く。巻き込んだのはオッチョであり、この人に普通に生きるのが大事だと言われても余り説得力がないように思うが、サナエが返事をする間もなく、踵を返してオッチョはこの場を去ろうと歩き出した。


 サナエは言い足りないことがあったようで、オッチョの背に向かって最後の言葉を伝えている。これが結果的にカンナと大勢の仲間の命を救うことになった。サナエはデモに行ったのは政治活動に興味があったのではなく内藤先輩が好きで探しに行ったのだと正直に述べ、そんないい加減な理由で首を突っ込むから氷の女王を止められなかったと自分を責めている。

 いい加減なもんかとオッチョはぶっきらぼうだが優しい。そういうのが、普通に生きることだと言っている。サナエはほっとした様子で、内藤先輩から教わった「グータララ、スーダララ」のフレーズを唄い出した。オッチョは聴いたことがなかった。この一節はしかし、その前の部分が収録されているカンナのカセットにはないとサナエは語る。

 「違うヴァージョンなんです」とサナエは言った。「まさか」とオッチョは言った。3年前は”ともだち”がまさかの復活を遂げ、そして今、もしかしたら幼馴染もまさかの生存中かもしれない。「そいつの敵討ちにいくんだ」という理由で刑務所から勝手に出て来た彼だったが、目的を修正する必要があるかもしれぬ。しかし、とりあえずはカンナだ。


 曙橋の喜楽庵は、「誠に勝手ながら しばらくの間 休業させていただきます。」という張り紙がしてある。そのガラス戸を誠に勝手ながら棒でブチ破って(ガラス破りはお手のもの)、オッチョは正面から喜楽庵に突入した。サナエにはつっけんどんだった店員も腰を抜かしている。

 カンナはどこだとオッチョの形相は仁王様のようだが、店員は知らないとなかなか強気である。オッチョが来たと伝えろと言っているさなかに、カンナが2階から階段を下りてきた。「カンナ」とオッチョは怖い顔。二人が同じ場所にいるシーンは、万博の開幕式以来か。カンナは無言である。止めても無駄だと顔に書いてある。


 このあと第1話は、北の検問所のシーンで終わる。何丁ものライフルを向けられて、気の毒に星巡査がホールド・アップしている。芹沢が偉そうに登場し、通報を受けたが宇宙人はどこだと星くんを尋問している。星巡査は開け放たれたゲートを横目で見ながら、「あ...中に入れちゃった」と言った。

 中に入れちゃったって、あなた。このあと芹沢に銃殺されたかと思ったが、幸い後にまた出てくる。いったいケンヂはどうやって宇宙人に怯える警察官に、開かずの扉を開けさせたのだろうか。無事、バイクもギターも持ち込んでいるし、どうやらオッチョと違って平和的に解決したようなのだが...。ここでも、ここから先も家路を急ぐにあたり、誰にも邪魔されない道中が続くのも歌のご利益か。



(この項おわり)



さざんか、さざんか、咲いた道 (2012年12月22日撮影)






































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