おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

5人目は誰か?  【後半】 (20世紀少年 第412回)

 前回に続く。ここでは、少し(というより、かなり)苦しいけれど、第1巻はモンちゃんの記憶が若干あやふやな様子であるため、とりあえず横に措いておき、これに対して第14巻は、ヴァーチャル・アトラクションとはいえ事実どおりであるとして、コンチが気付いた途端に5人目の姿は消えていたという仮定に立つ。

 その逆は(すなわち、モンちゃんがもう一人、誰かを誘っていたとしたら)、5人目が第1巻でも第14巻でも消えてなくなることを、私が上手く説明できないので不都合なのです。それに、第14巻のコイズミによる「今、あたしも人影が一つ多く見えたんだけど」という発言も、5人目は他の4人と同行していたのではなく、ふっと現れて消えた感じを伝えている。ヨシツネとコイズミは、彼らの後をつけてきたはずなのだから。

 5人目が単なる通りがかりではなく「意味のある消え方をした」としたら、どのようなケースが有り得るか。最初に、強引なのを承知で仮説を立てる。すなわち5人目は、ドンキーが理科室にたどり着く前に、別の経路で理科室に直行してフクベエに会い、来客ありと報告した。第14巻の116ページで、フクベエらしき人影が窓から下を見下ろしているのは、そのご注進を受けたためである。われながら好き勝手もはなはだしい創作であるが、ここでは、作者が無口なので仕方がないのだ。


 ドンキーが理科室に着いたとき、部屋の中にいたのは3人の少年であった。フクベエと山根と、ナショナル・キッドのお面をかぶった少年である。お面を付けているのだから誰だか分からない。ともあれ、116ページの絵が理科室の窓ならば、顔をのぞかせたのは髪型からしてフクベエに違いないと思う。多分このページの3枚の絵は、彼が窓際に歩み寄って、外を見て、立ち去ったことを示している。

 私の心もとない仮説に沿って考えれば、5人目は残る二人、山根かナショナル・キッドのどちらかである。ただし、この二人は第16巻において、フクベエと一緒に理科室に出かけているので、学校までは一緒に行ったはずだな。そのうちの一人が校門のあたりで何をしていたのか、知りようもない。閉め忘れた校門を閉めにきたのか。先生でも来ないか、見張っていたのか...。

 いずれにしても、夜の学校にモンちゃんたちが来ることを予想していたとは到底思えないから、ドンキー一人が校舎に入ってきたという急展開に接して、理科室の3人は自分たちだけで行うはずだった実験だか奇跡だかに、証人を立ち会わせる方針に転換したということになる。それまで点けてあったはずのアルコール・ランプを消して、ドンキーを待ち構えていたのだろう。


 このナショナル・キッドのお面をつけた少年は、第14巻の第9話でドンキーに、「サダキヨ?」と訊かれているが、返事をしていない。サダキヨ少年は、ずっと後に出てくるがキリコにお面を外すように言われて少し不本意そうだが外しているし、ヴァーチャル・アトラクションの中で大人のケンヂから、その姉と同じことを言われたときも外している。

 大人になってマルオに、おまえ、サダキヨだろと言われたときも、ちゃんと返事をしている。基本的に彼は、極度の恥ずかしがり屋かもしれないが、悪意のない相手を無視するような人ではない。これに対して、後でまた触れるが、この理科室の夜のナショナル・キッドはサダキヨ的ではない。

 ちょうど1年前の5年生の夏休みも終わるころ、サダキヨ一家は府中市に引っ越している。ケンヂたちの住む町に来るには、電車に乗る必要がある距離である。夏休みの真っ最中ならともかく、明日は始業式という日に、夜中の理科室にサダキヨがいるというのは考えづらい。そして、私たち読者はナショナル・キッドのお面の少年がもう一人いることを知っている。


 サダキヨではないほうのナショナル・キッドが、フクベエの後任としての(あるいは、複数いるなら、もう一人の)”ともだち”であると考えてよい論拠は、これからたくさん出てくる。取りあえずここでは、二つほど状況証拠を挙げます。「20世紀少年」は場面の切り替わりが頻繁で、複雑な構成を持つ漫画であるが、切り替わりの前後のシーンは相互に何らかの関連性や類似性があることを、これまで幾つも見て来た。

 この第14巻の場合、夜の理科室の出来事と同時並行で進む話の展開において、すでに高須が見たし、この直後にユキジとオッチョも見るのだが、フクベエと同じ顔をした男が登場する。さらにヴァーチャル・リアリティーに、例のともだちマスクをかぶった謎の男が侵入する。これらが相互に全く無関係でありながら重層的に描かれているとは思えない。同一人物だろう。


 もう一つは、第14巻とは関係ないのだが、余談を一席。「20世紀少年」の単行本は各巻の表紙絵にその巻の主な登場人物と、不気味な背景画が描かれているのが通常のパターンなのだが、最後の第22巻と「21世紀少年」の上下巻は、三冊とも顔の半分が二つずつという妙なデザインになっている。

 愛読者のみなさんにおかれては、とうにお気づきのことと思うが、せっかくの機会なのでヴィジュアルにご案内すれば、この三つの巻を右から並べてみると下の写真のようになる。中央の二人は同一人物の少年時代と中高年時代であることを示唆しているように思う。両側の新旧ケンヂが顔半分で気の毒だと思われるのであれば、この三巻の裏表紙もご一覧ください。



(この稿おわり)








宮古島に行ってきました(2012年7月8日撮影)