おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

ナショナルキッド (20世紀少年 第499回)

 私はナショナルキッドを知らない。初めて「20世紀少年」を読んだとき、忍者ハットリくんは知っていたのだが、ナショナルキッドのお面には心当たりがなく、ウィキペディアからYouTubeに至るまで、全面的にウェブ情報のお世話になった。ネットがなかったら、いまだに知らぬままだったかもしれない。

 知らないのも仕方のないことで、自分が子供のころナショナルキッドはアニメになっておらず、私が生まれた1960年から翌年にかけて実写版のテレビ番組として放映されたものだそうだ。ナショナルの名前は、スポンサーの松下電器産業株式会社のブランド名からきている。明るいナショナル、みんな家中、なんでもナショナル。


 動画サイトをのぞいてみると、ナショナルキッドが戦っている空飛ぶ円盤は、後年”ともだち”が飛ばす空飛ぶ円盤とデザインがよく似ているし、地球防衛連合軍という、どこかで聞いたような組織も出てくる。このナショナルキッドのお面を、なぜサダキヨが好んで使ったのかよく分からない。

 ここでいつものように妄想をたくましくすれば、最初のうちサダキヨは忍者ハットリくんのお面も使っていたのかもしれない。なぜなら、ケンヂの記憶にあった少年時代のサダキヨは、忍者ハットリ君のお面姿だったからだ(ケンヂの記憶力を論拠にするのは勇気が要ります)。だが、服部フクベエに禁止されて、ナショナルキッド専門になった...。


 屋上で宇宙人と交信するにあたり、悪い宇宙人が来るのを防ぐためには、グルグルうずまきの忍者顔よりも、宇宙戦争の実績が豊かなナショナルキッドのほうが良いのは確かだな。

 その大切なお面を、フクベエはサダキヨから取り上げたままで、8月28日の夜になっても、まだ持っている。それを付けて出かけて、神社のブランコあたりに肝試しの仲間が集まったのを確認し、屋敷に先回りをしようとしたところケンヂと鉢合わせしてしまったのだ。


 ケンヂは「よおっ。おまえも来たのか」とごく普通に語りかけ、来いよと腕を取っている。後に読者はナショナルキッドのお面小僧が二人いることを知ることになるのだが、この場面のケンヂは迷いを見せていない。ということは、サダキヨだと信じていたと思うのだが、その後、サダキヨがおらずフクベエがいることに彼は全く気が付いていないようである。

 ちなみに、第10集によれば、ともだち博物館にはお面がたくさん飾ってある。ナショナルキッドもあるのだが、どうやらサダキヨのとは少しデザインが違うようだ。それで借りざるを得なかったか。


 お面なんかとれよとケンヂは言った。あとでもう一回、この台詞を吐くときが来るが、だいぶ先なので、ここでは省略。お面を外して冷や汗をかき、うつむきながら、フクベエはさっき大阪万博から帰って来た云々と弁明を試みているのだが、顔を上げて見ると後ろ姿のケンヂは「わりぃ、遅れて」と他の仲間に挨拶している。驚くフクベエの表情が可笑しい。

 ケンヂの後を追ったフクベエは、わざわざケンヂの反対側に回って顔が見える位置に立ち、ふたたび大阪万博から戻ったばかりでという話を始めているのだが、ケンヂはもちろん他の少年たちも、怖がってこなかったらしいマルオとケロヨンの悪口を言ったりで忙しく、フクベエは誰も自分に気付かないと深く傷ついている。


 確かに、同級生たちに無視されたり相手にされなかったりすれば、誰でも傷付くだろう。フクベエは顔面蒼白で、脂汗を浮かべているのだが、この少年の場合、夏休みの間ずっと、大阪万博に行っているこの僕が気にかけてもらえないという、ひねくれた根性を抱いているので可愛げがないわい。

 ここから先の冒険譚は第8集のほうが詳しく描かれているのだが、ただし、第16集はフクベエの心境が書き加えられている。彼はケンヂが驚き怖れて逃げ惑うのを心待ちにしている。いよいよ階段の下まで来た。フクベエは「やれ、サダキヨ。動かすんだ、テルテル坊主を」と心の中で命じた。しかし、サダキヨは珍しく命令に違反したのである。そのせいかどうか分からないが、「失敗した。失敗した。失敗した...」ということになった。




(この稿おわり)






秋の散歩道 (2012年9月17日撮影)



































































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