おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

高須の驚き (20世紀少年 第406回)

 第14巻の84ページ目、雨が降っている。第一議員会館の一室で、白い粉を机の上に放り出したまま、バーチャル・アトラクションのヘッド・ギアを付けて、どこかに行ったままの万丈目を見下ろしながら、高須が呆れ顔で、今はせいぜい”ともだち”との思い出にひたっていればいいわと言っている。

 そして、”ともだち”が死んだ以上、早く現実を受け入れて、「あなたが世界を動かすのよ」とも語り、一つ、ため息をついて部屋を後にした。高須はまだ万丈目の内心の葛藤をよく知らないのだろう。だから、期待が大きい。当面、彼のナンバー2で動こうとしている様子であるが、それが甘いと分かったときの高須の行動は迅速にして残酷であった。


 先に飛びすぎました。部屋を出たところで、高須は万丈目先生に会いに来たらしい、例の秘書官らしき男に会った。後に出てくるが、名前は中谷。用件を聞くと、行方不明の亀山政務次官も拘束したという。

 高須は、「”絶交”なさい」と即座に行った。もはや万丈目が機能しないときは、自分が全権委任の代理になったつもりらしい。さすがに中谷は「よろしいのですか」と確認を入れたのだが、高須は「何か不都合でも」と言って黙らせた。

 ちなみに、この亀山政務次官と、15ページ目で万丈目に”絶交”を宣告された津川文化庁長官は、もしも第13巻の「円卓の会議」の参加者だったとすると(多分そうだろう)、50ページで「みんな若かったねえ」と言っている男と、51ページ目で「弔問の問合せも殺到している」と言っている男の両名であろう。消去法ではそうなる。他は全員この雨の日の前に死んだか、この後も生きている。


 高須がその足で降りしきる雨の中、向かった先は中目黒。目的は不完全ドリーマーのワールド送り。罪状はコイズミと同じで、「とっても悪い子」だからである。つまり、洗脳不良なのだ。その青年は喫茶店で、「友民党と”ともだち”が何か企んで...」と手書きで便箋に書いているところを、現行犯で捕まってしまった。

 携帯の電話口で、高須は「ドリームナビゲーター高須です」と名乗っているのだが、彼女は”ともだちワールド”が喪に服して休業中であることを知らなかった。どうやら政治と殺人に首を突っ込みすぎて、現場から遠ざかっている様子である。まだしもランド勤務時代は、人殺しはしなかったと思うが...。

 彼女の酷薄な雰囲気は森園に似ている。高須もワールド出身のエリートなのかもしれない。のちに、昔は学校の先生だったという経歴が明らかにされる程度で、高須の出自・学歴・職歴はほとんど全く不明のまま終わる。彼女と比べたら、まだしも万丈目のほうが人間的な感じがするな。


 レモンスカッシュを注文して、悪い子相手に「私たちと一緒に夢を...」と説教しながら高須は雨が降り続ける窓の外に目をやった。歩道に男がいる。最初は足元しか見えなかったが、”ともだち”はいつも上下同じ柄のスーツを着ていたのを高須は知っているに違いない。だから、思わず顔を上げて相手の顔を見た。

 高須の目にも涙か...。彼女は不完全ドリーマーなどすでに眼中にない様子で、店を出て雨の中を走った。男の姿は夜の闇と雨の帳が隠してしまい、追いつけなかった。「そんなまさか」と高須は言った。のちに出てくるが、万丈目が彼女の見間違いではないことを教えている。しかも、目撃者はこの二人だけではなかったのだ。さて。2回連続して、万丈目と高須のことを書いただけで気疲れしました。しかし、もう1回、万丈目に付き合わなくては。



(この稿おわり)



高原の青空(2012年5月3日撮影)