おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

復活の予告 (20世紀少年 第428回)

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 第14巻第10話の後半。マスクの男が再び「これが真実だ」と万丈目に言った直後、万丈目の顔がムンクの絵のように、ゆがみ始めた。そのまま彼は「ああああ」と叫びながら歪み続ける。

 ウルトラQウルトラマンのオープニング・ロールでは、最初はゆがんでいた画面が逆回転して、きしんだ音をたてながらタイトルの文字を描き出すという洒落た工夫があったが、万丈目は正回転し続けた挙句、マスクの男と共に、いきなりヴァーチャル・アトラクション(VA)内から消えてしまい、ヨシツネたちを驚かせている。

 
 ところが、万丈目の驚きは、それどころではなかった。屋外に雨の音がする議員会館の一室で、彼は意識を取り戻したが、鼻血を出しており息も荒い。デスク上の操作パネルには、「ヴァーチャル アトラクションは 正常でない操作によって 強制終了されました。」という警告が出ている。鼻血で済んでラッキーだったのだ。

 さらに、前を向いた万丈目の顔が驚愕と恐怖で引きつったのは、そこにVA用のヘッドギアを手にしたマスクの男が立っていたからである。どうみても、万丈目のVAを強制終了させたのは、この男だろう。ちなみに、前に書いた通り議員会館に入ったことがあるが、当然ながら警戒厳重である。マスクの男は、日ごろ出入りしている者に違いない。

 
 なお、このシーンの続きは、短い描写ではあるが、第15巻に出てくる。144ページ目において議員会館の同じ部屋で、椅子に座った万丈目と、その前に立っている高須が出てくる。ここで高須は、「あの雨の晩、その男はこうしてここに立っていた...」と言った。「あの男」とは、その雨の晩に高須も中目黒で見た”ともだち”のことである。

 万丈目は「ああ」と肯定したが、「何が起きているの」という高須の深刻な問いに対し「やめよう、バカバカしい」、「安心しろ。”ともだち”は祭壇で静かに眠ってるよ」と話を逸らして、13番の暴走についての話題に切り替えてしまう。恐怖のあまり思考停止に陥ったか?


 私はこの「ともだちマスク」をつけてVAに入ってきた男について大いに興味がある。フクベエと比較したとき、最後の最後まで、この男の正体や、なぜ何をやろうとしているのか、よく分からないまま物語は終わってしまう。ついては、このあたりは読者の解釈に任されていると考えて、気ままに解釈します。

 エンジニアの彼によれば、ともだちマスクの男はVAの構造を知悉しているようであり実際、「人間とは思えない」スピードで理科室に直行している。通常の操作方法とは違う手段を用いることができるほどの専門家となれば、当然、理科室で誰が何をしているのか知った上での行動である。では、何の目的で侵入してきたのか。


 2000年の血の大みそかの細菌兵器による攻撃は、”ケンヂ一派”のテロだったというでっち上げが行われた。1997年以降、フクベエたちは周到にケンヂを犯罪者に仕立て上げてきたし、合成写真の仕上げまで行った。

 それと比べて、この「ともだちマスク」が主導した2015年の西暦の終わりは、第16巻183ページのサナエの証言によると、あのウィルスは「宇宙人によってバラまかれたもの」だと、”ともだち”は言っているらしい。犯罪の品質(?)が至って劣化しており、荒唐無稽になっている。


 ともだちマスクは、どうやらケンヂ本人に対してのみ強い感情を抱いていることが後に分かってくるが、それ以外のメンバーに関心はないし、”ケンヂ一派”の残党を悪役に仕立てる意向もなかった様子である。第14巻のVAの理科室においても、マスクの男はヨシツネ達には全く何の関心も示していないし、置き去りにして去った。


 どうみても、この日この男は万丈目だけに用があったのだ。だが、「これが真実だ」ということを教えに行ったのではないと思う。少なくとも、それが最大の目的とは思えない。今ここで、わざわざ、そんなことをする必要性はなかろう。この日の彼の一連の行動は、ただ一つの動機に支えられているように思う。「復活」の予告編である。

 この予告編なくして、いきなり法王の前で立ち上がって見せても、一般人はともかくとして、フクベエが死んだことを知っている万丈目や高須や敷島、オッチョやユキジがすぐさま”ともだち”が生き返ったと信じる(あるいは逆に、疑う)はずがない。マスクの中身は別人、ニセモノと考えて当然である。それでは都合が悪い。そう簡単には、復活した”ともだち”にはなれない。


 これを避けるために、彼は雨の中、忙しく都内を移動して敵味方の主な関係者にフクベエと同じ素顔を見せて歩いたのだろう。さらに、VAと議員会館の中で、”ともだち”の姿を万丈目に見せつけた。万丈目に限って言えば、その効果は最大級であったろう。後に法王のスピーチのとき、彼は即座に、フクベエは死んだと見せかけて、かつ生き返ったと見せかけたと信じた。

 しかし、まだ先の話だが、ともだちマスクの男は、世界中に対し”ともだち”であり続けたけれども、万丈目とケンヂにに対してはフクベエではないことを隠し続けることはしなかった。この二人には自己主張をせざるを得ない何かを背負っていたのであろう。それが一体どんなものなのかは、これから随時、考えます。


 何はともあれ、第14巻のここまでは話が暗い。作者もこのままでは後味が良くないとお考えになったか、VAの理科室からマスクの男と万丈目が消え去った後、若干のファンタジックな劇中劇が用意されている。主役はヨシツネとカンナ、助演は少年時代のヨシツネとドンキー。ただし、その前に、もう一度、コイズミに絶叫してもらわないとならない。


(この稿おわり)
 
 


今日の大物、フエフキダイ(2012年7月10日撮影)




こんな海で泳いでいる魚なのだ(同日)