おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

何だって (20世紀少年 第461回)

 ロジャー・クレメンスが50歳にして現役復帰し話題になっている。日本でアメリカの野球をテレビで普通に観られるようになったのは、フロンティアの野茂英雄ドジャーズに渡って以降のこと。その前の時代のピート・ローズハンク・アーロンのプレイを、私たちは殆ど観ていない。こればかりは仕方がない。

 つくづく残念なのは、ついにノーラン・ライアンのピッチングをこの目で見られなかったことです。この投手が一体、いくつの記録を持っているのかよく知らないが、彼については、そういった実績よりも、好きなエピソードが一つある。ライアンと同じチームに属した同僚選手の少なくとも16人が、生まれてきた自分の息子にノーランという名を付けたらしい。



 いつもながら友民党の話題に愉快なものではないが、今回は避けて通れない題材がある。第15集の144ページ目、例の議員会館にある万丈目の部屋の中、今日はめずらしく机の上が片付いている。口うるさい来客がきているからかもしれない。チェアに座ったままの万丈目に相対する位置に、高須がトレンチを羽織って立っている。

 「あの雨の晩、あの男はこうして、ここに立っていた...」と高須が確かめるかのように言う。万丈目は「ああ...」と頷いた。ヴァーチャル・アトラクションのヘッドギアを奪い取られた件は黙っていたいようだ。万丈目によると、彼は男に対して「おまえは誰だ」と尋ね、相手は”もうすぐ、わかるよ”と答えたらしい。実際は、そうすぐでもなかった。


 高須は同じ雨の夜に、中目黒で確かに”ともだち”を見たと断言したうえで、「何が起きているの?」と万丈目に訊いている。この第15集あたりの高須はその前後と比べ、至ってまともな顔をしている。ドリーム・ナビゲーターとして現場にいたときの彼女は、いかにも怪しげな接客業にありがちな、目だけ笑っていない凍りついたような微笑をその顔に張り付けていた。また、後年は狂信者にありがちな異様な目付きに変わってしまう。

 万丈目は「やめよう、バカバカしい」と話を打ち切っている。高須は「しかし...」と食い下がるが、万丈目は”ともだち”は祭壇で静かに眠っているから安心せよと伝え、さらに、興味深いことに高須に対し、13番を早く見つけ出して、「奴の暴走を止めろ」と言って、一人、部屋から出ていった。


 かつて、この二人に「暴走を止めるべし」と言われたのは、ともだち館長時代のサダキヨであった。そのときのサダキヨと同様、今や13番は二人の意向に反して、乱暴な行動を起こしているらしい。”ともだち”亡きあと、友民党の意思決定者であるはずの「万丈目−高須」という指揮命令系統から逸脱しているのだ。13番が何をしようとしているのか、二人は知っているのだろうか。

 推測するとすれば、13番は第13集の円卓会議において、膠着している会議に途中参加で現れて、「私は”よげん”を信じる。”しんよげんの書”を実現するまでだ。」と明言している。

 そのまま考えが変わっていないのらば、彼は「ばんぱくばんざい」の邪魔はしないだろうが、2015年に西暦が終わり、世界大統領が誕生する手伝いはするだろう。しかし13番は殺人マシンである。仮にも法王を狙撃されたりしたら、事態は万丈目たちの手に負えなくなるのを恐れているのか。


 次の場面が、ちと面白い。部屋を出た万丈目を待ち構えていたのは、例の秘書官らしき中谷であった。彼は万丈目を「幹事長」と呼んでいる。これが少し気になる。

 2000年にケンヂがバンコクのオッチョに電話をしたとき、ケンヂは万丈目を友民党の「党首」と伝えている。第7巻では血の大みそかの夜、与党第一党の幹部らしき男も、万丈目くんを「連立与党友民党の党首」と呼んでいる。そのころの万丈目は、幹事長とは呼ばれていない。

 党首というのは、政党のボスを表す抽象名詞であって、政党ごとに党首の役職名が異なってもよくて、代表であったり、総裁であったり、書記長であったりというのは、日本の党首会談など見ても明らかである。今の日本の政治家は、政治よりも党首を選ぶ仕事のほうが好きなようだ。


 もちろん、一党首の役職名が「党首」であっても「幹事長」であっても構わない。いずれにせよ、友民党は、忠誠を誓った第一人者こそ”ともだち”であって、彼は超然とした立場にあり、浮世の「まつりごと」は万丈目が総責任者であったはずだ。

 幹事長というポストは、本邦の多くの政党においては、伝統的に党首直属の要職中の要職であって、企業に例えれば人事・総務・経理など管理部門を担当する役員の筆頭格のような存在であるが、それは習慣であって、幹事長というポストが党首になったとて、この国では珍しいだけであって言葉の誤用ではない。
 

 それにしても、第13巻で心不全のため急死した友民党の幹部の一人、小向氏はテレビのニュースによると友民党の幹事長となっている。この当時も万丈目は幹事長ではなかったのだ。その後の彼は、幹事長の後任を置かず(粛清しすぎて、人材不足になったかな)、自ら党首・兼・幹事長になったのか? 

 しかし、上下のポストを兼任する場合、中谷のような部下が声をかけるときに、下の役職名で呼ぶことはまずあるまい。どうやら、友民党は党首と幹事長のポスト二つを置くのを止めて、幹事長の職名をもって党首としたのだろう。後に全権を握る高須も、幹事長を名乗っている。


 中谷の報告の前半は、問題がなかった。すなわち、ローマ法王の新宿歌舞伎町教会の訪問は無事終わった。あさっての万国博覧会の開会式出席をもって、訪日の全行程が終了する。ここまで万丈目は、関心を示すこともなく、議員会館の廊下を歩み続けている。しかし、中谷の最後の確認事項には足が止まった。

 中谷は、「その開会式のセレモニーで、”ともだち”の遺体と法王が対面ということでよろしいですね」と念を押してきた。「な...なんだって?」と狼狽して振り向く万丈目の顔には読者も驚きだ。”ともだち”の死以降、万丈目はびっくりすることばかり。ユジキの心配するとおり、歯車はおかしな方向に回り始めている感じがする。




(この稿おわり)





新潟の山奥にて (2012年8月8日撮影)




温泉に至る苔むした道 (2012年8月11日撮影)


























































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