おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

会議は踊る (20世紀少年 第368回)

 円卓の中央に巨大な”ともだち”マークが描かれている。「で、どうする、万丈目さん」と会議の口火を切ったのは、小向幹事長であった。続いて参加者による現状確認。万博と法王来日。他方で、世界に広がる追悼モード。開催延期論も出ている。ヤマさんが、「万博は三月から開催予定だろう?」と言っている。大阪万博の開幕日は、1970年3月14日。マネしたな。

 万丈目は「みんな動揺のないように」と落ち着き払っている。ちょっと前の醜態はどこへやら。彼はおもむろに懐から書類を取り出し、”ともだち”が生前に託したという「何かあったときの対処」を読み上げている。いわく、密葬でよろしい、香典がたくさん集まるから、我らの細菌研究費に充てよという、遺書と言うよりも人殺しの段取りの引き継ぎみたいなものだな。


 席上では、敷島教授の娘がなかなか冴えている。「死してなおって感じね」と的確なコメントを出しているし、その言葉に取り乱した男が鎮まると、今後は「で、このあとの後継問題はどうする?」と本題に入っている。ここから先の議論は、万丈目対その他という感じの展開になる。

 発言を全部引用していると大変なので割愛するが、この会議のあとで何人かが不審な死をとげたり、逃げて捕まり”絶交”されたりするのだが、その人たちはおおむね、ここで万丈目に対し攻撃的、懐疑的な態度をとった人々だったと言ってよい。他方で、この場において黙っていた者はほぼ生き延びている。


 日本人の会議とは不思議なもので、議題は名ばかりというものが少なくない。すでに先に出ている結論を追認するためだけだったり、会う必要もないのに集まって何の結論も出さなかったり(暇なホワイトカラーが自分で自分の仕事を作り出すための井戸端会議である)、あるいは結局、一番偉い人がすべてを決めるお裁きの場だったり、外形は様々だがほとんどの場合、人数×時間の無駄遣い。

 この日の友民党の円卓会議は、実は既に裏で万丈目支持派が結束を固めており、それ以外の実力者がどう出るかを確認するための茶番劇だったのかもしれない。その状況証拠の最たるものは、13番の闖入であろう。万丈目は厳しい顔をして見せるが、放逐しようと思えばできるのにしない。


 13番が”ともだち”本人と、あるいは、党内の暴力装置を統率する者らと直結している存在であることは、かつての新宿歌舞伎町の狙撃事件でも、後ほど起きる万博会場での暗殺「未遂」事件でも明らかである。お前の来るところじゃないと他のメンバーからは相手にされないが、「12番目の席が空いている」と主張して平然としている。

 彼の囚人番号の13は、もしも偶然ではなく本人が選んだものだとしたら、この筆頭幹部12人に準ずる者としての自負か? だが、嫌われているようなので、「”ともだち”の口癖だった。”みんな最後まで仲良くやろうよ”」を繰り返す。そんな口癖は、これまで出てこなかったが。いかにも言いそうな台詞だけれど。


 収録されている最後の発言は、税関時代のユキジの上司、元厚生労働大臣による動議である。本当に最後まで行くつもりなのか、本当に”あれ”をやるつもりなのかと問う。これは、その前に13番が”しんよげんの書”を実行するまでだと提案したのに対する反論である。

 彼は数日前に、娘さんが危うい分娩を無事乗り越えて、孫を持ったばかりであった。そのおかげで、結果的にだが、春さんとマルオは命拾いし、それに”ともだち”も「ひみつ集会」に参加できた。少しは、親として祖父として、命の大切さが身に染みて分かってきたのか。

 
 彼の結語は、「あんた方みんな、死ぬのが怖くないんですか?」という切実な問いであった。だが、手遅れだったし、訊くべき相手でもなかった。現代の多くの日本人は自分が死ぬことから目をそらして生きているが、この連中の多くは、自分はワクチンを打つから大丈夫という、更なる安心感の下、凶行を続けようと決意している者共である。

 彼に「もう、終わりにしましょう」と言われて、会議室は静まり返った。そのあと、どんな話が出たのか、どんな結論を得たのか、全く不明である。ただし、元厚生労働大臣がこの世に残した最後の独り言は、「平和な世界が来る」というものだったから、何となくお茶を濁して解散し、発言した本人は、特に反対者もいなくて一安心したのかもしれない。

 しかし、「よげん」によれば、「あくむのようなせかい」はすでに前年、始まっていたのだ。少年時代にそう予言した当事者2名が、すでに夜の理科室で身を以て(死を以てか)証明している。首都高から荷物満載のトレーラーが頭上に降ってくるというのも、極めつけの悪夢であろう。税関責任者の地位を悪用して細菌兵器を輸入した男の末路としては致し方ない。運転手がちょっと気の毒だが。



(この稿おわり)



山田(2012年大型連休中に撮影)