おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

海猿 (20世紀少年 第504回)

 いったん3作目でシリーズ終了になった人気映画「海猿」の第4作が作られた背景には、東日本大震災における海上保安庁の活動に感銘を覚えたファンからのリクエストに応じたのも一因であるとどこかで読んだ。近ごろ嬉しい話題である。しかも、海上保安庁は近年、誰がどう見ても永田町や霞が関より、この国の命運を南方海上で担っている。

 映画で「海猿」は海上保安官のあだ名として使われている。あえて海猿を直訳すると「Sea Monkey」か「Ocean Monkey」なのだが、もはや「シーモンキー」を知る者は、圧倒的少数派に属するであろう。乾いた粉のようなものを、しばらく水の中に漬けておくと、何やら生き物が発生するという手品のような子供だましの商法であった。


 私はこのシーモンキーの現物を、一度だけ見たことがある。格差は昔にもあって、ほとんどが当家のような貧乏であるのに対し、クラスに一人か二人は自宅敷地内にテニス・コートとかスイミング・プールのある豪邸に住んでいるのだ。ああいうのをみて、こんちくしょう今に俺だって、と思わない私のようなタイプは大物にはなれない。

 シーモンキーは、確か祖父が市議だったか県議だったという金持ちの級友に見せてもらった。すでに孵化しており、何やら小さいものが蠢いているが、どうみてもサルには見えず、全く魅力がなかった。これはニセモノだと子供心に思ったものだ。ネットの諸情報によると、エビさんの一種らしい。まだ売っているのかな。


 イチョウの葉が散り始めているから、1970年の晩秋であろう。万博も終わっている。第16集の94ページ、ポケットに手をつっこんで一人下校中のフクベエは、チェックのジャケットを羽織った香具師の万丈目が、NASAで開発された特殊な容器で育てれば5年も生きるというシーモンキーを道端で売っているのを見た。

 この日の万丈目、客層に恵まれなかった。しゃがんで彼の売り口上を聞いてやっているのは山根である。「NASAってインチキだ」と、テキヤ相手に論陣を張るとは、なかなか度胸の据わった小学生と言わねばならない。もちろん万丈目は譲らないが、フクベエが「本当は月になんか言ってないって話だろ、山根君」と加勢に入っている。ハットリと万丈目、後に全人類に壮絶な迷惑をかけることになる二人の初顔合わせ。


 山根は嬉しそうだ。絶交を解いてほしいと”ともだち”にせがんでいる。山根は「久しぶりだね」、「万博会場に会えると思ったけど」と言っているので、山根が絶好されたのは万博の前であり、かつ4年生のときの学級委員の会議以降のどこかの時点である。絶交の理由は、「僕らの秘密を平気でオッチョにしゃべったりするから」と言っているから、例の生物兵器の件である。

 また、もう一つ、「手品とかいうしさ」というのは、この直後、フクベエが万丈目の目前で「象が踏んでも曲がらないNASAの高級スプーン」をひん曲げて見せた技のことであろう。山根の口ぶりからして、フクベエのクラスで給食のスプーンが全部曲がった事件は、すでに起きたことらしい。

 
 フクベエ対チャック万丈目の場面はどうやらインチキではなさそうで、フクベエはスプーンを本当に曲げることができたらしい。給食事件も本当に彼だったのだろう。それがなぜテレビではインチキになってしまったのか謎が残るが、今は詮索しません。実の娘のカンナが同じ技を使えるのだから、スプーン曲げの超能力保持者であった蓋然性は高いのだ。

 この場面が採録されているのは、フクベエと山根が万丈目の露天商姿を見て、セールスマンが世界中にビールスをばらまいて歩くという着想を得たという事情がある。二人は早速、茫然とたたずむ万丈目を置き去りにして理科室に赴き、ビールスを食い止めるワクチンを山根が開発するという構想に夢中になった。


 「僕達、本当に人類を救うんだ。僕らのおかげで、人類は滅亡しないですむんだ」と山根は興奮している。いつから、その役回りが逆転したのだろう? 山根に「人間以上」とおだてられてフクベエはご満悦である。「人間以上」とくればSFの古典、スタージョンの作品名を思い出すが、はて、筋を忘れてしまった。記憶力が落ちると、自動的に新作が増えて便利。

 そこに理科室へ入ってきたのが、ナショナルキッドであった。山根が「サダキヨ?」と問うている。ナショナルキッドが二人いることは、サダキヨの転校前から分かっている。フクベエは転校先でもまたイジメられたのか、”ともだち”は僕しかいないんだと自慢気である。確かにこの元気のなさは、サダキヨらしい。しかし、これに続く場面のナショナルキッドは、たぶんサダキヨではない。



(この稿おわり)




あっと驚けば抜け殻だったヘビ (2012年8月8日撮影)

































































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