おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

円卓 (20世紀少年 第367回)

 第13巻の第3話は「円卓の会議」というタイトル。友民党の本部会議室らしき場所で同党の幹部が集まって緊急会合を開催する場面である。

 冒頭で久々に登場の二人、長髪の人殺しと敷島教授の娘が、きつい皮肉や当てこすりの応酬をしている。どうやら、もはや男女の仲ではないらしい。男の方が口が悪いところをみると、捨てられたのはこちらか。

 敷島娘の夫の話には以前、触れました。連立相手の与党第一党の総裁選に出るらしい。まもなく西暦が終わり、世界大統領が誕生してしまうので、彼女のライフ・プランも当てが外れたことだろう。


 何年か海外で働いたので、西洋人の好きな「Round Table Meeting」なるものに幾度か呼ばれたことがある。会議が嫌いで、外国語が苦手だから二重につらい。どうせ丸テーブル囲むなら、中華料理を美味しくいただくに限る。

 円卓の騎士は、キング・アーサーの伝説にある。円卓会議の参列者はみんな平等との建前らしいが、この友民党の会議も同様、大事な用件の会議において、全員の立場や発言権が同じわけがない。席次を決めるのが面倒なだけだ。それに、円卓会議は極めて閉鎖的であり、関係者以外のすべてに背を向ける排他的姿勢をとる。円卓は寡頭政治の象徴なのだ。


 昔アメリカで”Fashionable Delay” という言葉を教わった。パーティーの際に、権力者とか有名人とかが、遅れて参加して満場の注目を浴びるという嫌味な作法であるらしい。私が同じことをしても遅刻と呼ばれるだけ。万丈目ならどうか、ともかく偉そうに最後に登場し、「久しぶりの再会で積もる話もあると思うが、さっそく会議を始めさせていただく」と言った。

 この「何々をさせていただく」という敬語が多用されるようになったが、文字通り、させていただく了解を誰かに取るべき場合にしか用いるべきではないと思う。この場の万丈目のように他者の承認を必要としないときは、ばか丁寧に聞こえるだけです。しかも遅刻してきておいて早速も何もないだろう。


 「席は12人分用意したが、一席だけ欠員がでた」と万丈目が言う。「山根が”ユダ”だったとはな」とヤマさんが言う。イエス十二使徒を気取ってきたのか。この二人の会話から、先ほど万丈目が言った「久しぶりの再会」とは、山根がまだ席に座っていた時期以来であることがわかる。

 山根が逃げ出したのは2003年なので、それ以降に開催実績があれば、こういう発言にはなるまい。十年以上、円卓の会議は必要なかった。それほど友民党の権力基盤が安定していたのか、緊急事態がなかったか、あるいは円卓が意味をなさないほどに、誰かに権力が集中したか。最後の事情かな。


 小向幹事長は、山根の裏切りが、まさか2001年の国連憲章に呼ばれなかったのを恨んでのことではないだろうなと言っている。たしかに写真を見ると、呼ばれた9名の中に山根の顔はない。9人を選んだのは、もちろん「よげんの書」に「9人の戦士が立ちあがった」と書いてあるからだが、席次が後ろだったのだろうか。というよりも、山根の「功績」は公にできないからだろうな。

 写真に居並ぶ9名は、円卓の会議に全員出ている。逆に言えば、11人いる参加者のうち、2人は国連に呼ばれていない。一人は最近になって頭角を現したらしい高須である。万丈目の引きがあってここまで出世したか。それに加えて、ほめるつもりはないが、彼女はドリーム・ナビゲーターの主任として、よく働いたのではないか。サダキヨを取り逃がしたが...。


 もう一人は、51ページ目の中段で、「だが、何もなかったようにではすまされんでしょう」と言っている半白髪の初老の男である。官界か財界に属していそうな物腰と服装。第22巻の61ページでも生き残っているから、しぶとい。もしかしたら第4巻の160ページ目、1997年のロボット会議で「50メートルっているのはいいな」と言っている者と同一人物かもしれない。

 写真の9名のうちヤマさんとユキジの上司、長髪の殺し屋と敷島教授の娘以外の5人は、ロボット会議の参加者なので、1997年には既にそれなりの意思決定に参加できる立場にあったわけだ。ヤマさんと税関職員は、まだ公務員の顔のまま、一味にも知られることなく暗躍していたのかもしれないな。ともあれ、このご一同さまが”ともだち”なきあとの友民党を運営しようとしている。会議が始まった。


(この稿おわり)



ナスタチウム(今朝撮影)