おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

泣きながら歩く一人ぼっちの夜 (20世紀少年 第293回)

 今日から第11巻に入ります。原発事故後、今は亡き忌野清志郎の「ラブ・ミー・テンダー」が話題になった。この曲には、核は要らねえ、放射能は要らねえという歌詞が出てくるため、反原発ソングと評価されたようだ。調べてみると、同曲は発売を拒否されたらしい。

 ビートルズストーンズらの曲は、当時、放送禁止になったものも多く、今では信じられないが「A day in the Life」も麻薬の歌だからという理由で放送が禁止されたらしい。しかし、発売までは禁止になっていない。そのビートルズで散々、儲けてきた会社が、清志郎の作品の販売を拒絶するとは、尋常の沙汰ではない。


 同じ反核であっても、まさか核兵器反対が大問題になるとは思えないので、やはり当時は、反原発という側面が問題視されたのだろう。日本の支配者階級、体制側というのは、こういうことを平気でするのだな。同曲の歌詞にもあるように、「今度のことで ばれちゃった その黒い腹」といったところか。

 先日、ゴルゴ13を読んでいたら、「支配者が定めたルールを守るのは、弱者だけだ」というセリフが出て来た。かつて、ジョン・レノンミック・ジャガーがそうしたように、清志郎はステージで「ラブ・ミー・テンダー」と歌い続けた。

 ちなみに、原曲はもちろん、エルヴィス・プレスリーの「Love Me Tender」である。この美しいメロディを持つ曲のカバーは無数にあるのだろうが、私の記憶に鮮明に残っているのは、どの作品を見ても腹が立つデヴィッド・リンチ監督の映画「ワイルド・アット・ハート」のエンディングで、ニコラス・ケージが良い声を聴かせていた。


 ところで、残念ながら録音したカセット・テープを紛失してしまったのだが、私が大学生のころ(30年も前だ)、RCサクセションはライブ・アルバムを発表している。

 その中で清志郎が「日本が生んだ最高のロックンロール」と前置きして唄っていたのは、彼らのオリジナル曲ではなくて、坂本九ちゃんの「上を向いて歩こう」だった。震災このかた、あちこちで歌われている。ボブ・レノンのように。


 春川校長は、まさに「今度のことで ばれちゃった その黒い腹」状態。カンナは聴き間違いであることを祈るかのように、サイコキネシスで校長を締め上げて問いただしているのだが、やはり答えは同じで、カンナの父は”ともだち”であった。校長のメガネが割れて飛び散り、悲鳴が挙がる。

 もっとも、のちほど校長が高須あてに、カンナの覚醒を報告しているので、カンナは鉄雄と違い、超能力で相手の頭をカチ割るような凶暴な人ではなかった。だが、彼女の受けた精神的な打撃は計り知れない。最も憎んできた相手が、実の父だと後になって知らされるとは。


 降りしきる雨の中、泣きながら歩く一人ぼっちの夜。カンナは傷ついた心を癒すべく、ケンヂおじちゃんの歌を聴こうとするのだが、こんなときに限って、幾ら叩いてもカセットが動かない。さすがの彼女も、泣いて叫んで膝を屈してしまう。

 ここから先、物語は、2000年血の大みそかにケンヂと幼女カンナが交わす会話と、2014年の傷心の高校生カンナの動きとを相互に描きながら進む。カンナ、まずはゲーム・センターに行くとは、現代っ子というか未来っ子というか、世代の違いを感じます。


(この稿おわり)


火の山、雲仙(2012年2月27日撮影)