おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

ヨシツネ隊長の秘密基地    (20世紀少年 第239回)

 第8巻の113ページ目、レレレのおじさん風にホウキで掃除をしながら、ヨシツネが歩き去るのをコイズミが追いかけているのは、盗撮されたデジカメ写真のメモリーを取り返すためだ。考えたな、ヨシツネ。初対面の女子高生を秘密基地に連れて行くなどそう簡単にできることではない。

 レレレのおじさんは、言わずと知れた「天才バカボン」の登場人物で、目のつながった「本官」と並ぶ名脇役であった。赤塚不二雄が亡くなってから、もう4年になる。タモリ勧進帳は見事だった。赤塚さんは繊細な方であったと聞く。麻雀が弱く、その理由は相手が気の毒なので「ロン」の一声が出せなかったらしい。

 インタビューで、「私の作品でヒットしたのは6本だけです。それも、編集者に恵まれたものばかり」と謙虚に語っておられた。彼の残した言葉で、一番印象に残っているのは、「漫画家は2種類しかいない。手塚治虫と、手塚治虫以外だ」というものです。


 コピー・ライターという職業が脚光を浴び始めたのは、私が大学生のころではなかったかと思う。高度成長が終わり、高品質・低価格・新発売というそれまでの広告宣伝のお決まり文句だけでは、なかなか売れなくなったのだ。このため、中沢新一さん風に言えば、売り手は買い手の潜在意識に訴え始めた。言葉や音楽や映像に力を入れ始めたのだ。

 私が一番好きなキャッチ・コピーは、残念ながらそれが何の商品だったか、あるいは何かの催し物だったのか忘れてしまったのだが、次のコピーである。私の前後の年代には、解説不要であろう。
  赤塚不二雄 「これでいいのだ」
  タモリ 「それでいいとも」


 さて、ヨシツネは複数の秘密基地を持っている。第11巻の140ページ目、ユキジと市原弁護士とカンナがヨシツネの隊に合流した場面で、彼は「基地なら、ともだちランドの近くにもあるし、ほかにも三つほどつくった」と語っている。そのシーンは、その前のページでも描かれているように、羽田にある基地だ。

 他方、第8巻でコイズミが連れて来られたのは、おそらく、「ともだちランドに近い方」の基地だろう。用件を済ませた後で、彼女はともだちランドに戻らなければならないからな。第8巻と第11巻の基地が違うということは、建物の入口の形が違うことからも分かるが、なにより棚に置かれた写真が違う。


 第8巻で「彼らの誰かが戻ってきたら、いつでも隊長の座を譲るつもりだ」と語るヨシツネとコイズミが見上げているのは、シューティング・アトラクションでコイズミが見たばかりのマルオ、オッチョ、ケンジ、そして彼女は知らないがモンちゃんの写真であった。

 モンちゃんが入っていてユキジがいないのは気の毒だが、136ページ目と138ページ目の写真の遠景によれば、どうやらヨシツネの頭に隠れがちの写真はユキジのそれだろう。しかし、フクベエは見当たらない。暗示的である。もっとも、第12巻のユキジの回想によれば、みんなの写真を撮っていたのは、そのフクベエであった。


 他方、羽田の基地にある写真は、第11巻の142ページ目や、第12巻のユキジの回想のあとで出てくる177ページの絵によると、写真そのものは同じだが、額と配列が違う。それにフクベエの写真もある。第11巻では、カンナがそれを見上げているのだが、特に反応は示していない。

 第12巻で、カンナはケンヂたちの生まれ育った街を訪れた際に、赤ん坊のころ自分を連れ去った男の顔を思い出しており、「あの人が、お父さん...」とつぶやいている。なぜ、お父さんだと分かったのだろう...? それは追い追い考えるとして、彼女はここでフクベエの顔を思い出しているはずだ。3歳のときの記憶なのか、この写真なのかは分からないが。


(この稿おわり)



天下の上野動物園も、さすがに龍の飼育はできまい。ウナギイヌを思い出す。
(2012年1月2日撮影