ページ順でいうと、”ともだち”の正体にたどり着いたマルオに続いて、ヨシツネとユキジが真相に迫る。第12巻173ページ目、歴史の教科書を開いて、コイズミが怒っている。「このページ開いて、この写真、嘘くさいでーす、なんて言わなきゃ、今頃こんな目にあってないのよ」なのだ。
ユキジ、「以前から記事に良く使われている写真ね。見たくもないわ」。ヨシツネ、「”巨大ロボットを操る”ケンヂ一派”。あきらかにでっちあげの合成写真だ。見る価値もない」。コイズミ、「(前略)あたしみたいな、いたいけな女子高生をいたぶる罠」。評判が悪い。
寺山修司はコミュニケーションを、キャッチボールに例えた。続けていると、だんだんと手が暖かくなってくるからだという。これでも元野球少年、この感覚はとてもよく分かります。一方、秘密基地でのヨシツネとユキジの言葉のやり取りは、だんだんと頭が痛くなっているようなものだった。そして、とうとう来るべきところに来た。
「でもこれって、よく見ると、あたし達は本物みたいね。」とユキジは言った。これまで「見たくもない」ため、よく見てなかったのだな。コイズミの功績であろう。ヨシツネもみんなの服装を見て、あの日のかっこうだなと気が付いている。何かの写真を元にしたのか。誰かに写真を撮られていたのか。
第10巻174ページ目の下段に描かれている6名の後ろ姿の絵は、第5巻の113ページ目で「さてと、行くか。」というケンヂの合図で、7人が巨大ロボットの退治にむけて最初の一歩を踏み出した場面の直後のものであろう。ここで、シャッター音に驚いて振り向いた6人の顔ぶれを見ると、この写真を誰が撮影したのかがわかる。
「思い出したわ、誰が撮ったか」とユキジは言った。「ああ...」とヨシツネも言った。ここで不思議に思うのは、先ほど真相を知ったマルオの憤怒の表情と比べて、ユキジとヨシツネの言動がかえって穏やかなものに変わっていることである。この時点で二人はまだ、写真を撮影したからといって、即座に彼が”ともだち”だと断定する気にはなれなかったのか...。
コイズミに「誰?」と訊かれたヨシツネは、直接それに応えず、「あいつ、みんなの緊張をほぐそうとしたんじゃないかな」と言う。部屋に飾られた皆のポートレイトも、ユキジの記憶によれば、「彼、いつもカメラ持って、みんなのこと撮ってたものね」ということらししい。確かに、彼の撮影したネガが、悪意の第三者に渡った可能性はまだ残っているか...。
ここでヨシツネが1997年の同級会の話題を出す。会を企画したユキジは、当日、万丈目の白い粉を見つけてしまい参加できなかった。その夜、ヨシツネはほとんど誰が誰だか分からず、彼もケンヂに紹介されるまで分からなかったという。
続いて、例のスプーン曲げの事件で、関口先生が約30年ぶり二度目、全員に目を閉じさせ、犯人に手を挙げさせた話も出た。ヨシツネも目をつぶっていたので、結局、誰だか分からなかった。ここまでは、ヨシツネもユキジも落ち着いた表情のままだ。
だが、そのすぐ後で、さすがのヨシツネも思い出したのだ。あのとき、関口先生が言った言葉を。「ほおっ、おまえか。なんでおまえ、あんなことやったんだ」。老いてなお、サダキヨの顔を認め、キリコの思い出を語る関口先生である。彼ならば、手を挙げたのが誰か、正しく認識し、今も覚えているだろう。ヨシツネは悪い予感がした。
(この稿おわり)
飛騨、平湯温泉の木製スプーン。折り曲げを禁ず。(2012年5月10日撮影)