おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

コイズミ逃げる    (20世紀少年 第238回)

 第8巻の第6話「逃亡」は、コイズミが「ともだちランド」に耐えきれず逃げ出す物語。何せ、気色の悪い研修にはついていけないし、風呂場で変態らしき男に覗かれるし、せめて部屋で「エロイム・エッサイムズ」を聴こうとしたところ、隠し持っていた再生装置は、なぜか突然部屋に入ってきた高須に没収されてしまう。

 さては盗聴器でもあるのかと部屋中を探しながら、壁に架けられた絵をどけたところ隠れていた壁に小さな字で「たすけて」の一言。これについてはあとで詳しく出てくる。たまらずテレビをつけたものの、春波夫の歌う「ハロハロエキスポ音頭」だの、「ともだちTシャツ」のCMだの、ろくな番組がない。

 ここでの「ともだちTシャツ」は、2枚買うと4,980円だという。デザインは無地に例のマークだけ。高くないか? 第1巻で田村マサオが敷島ゼミ生に売り付けたときは、一着980円だったのだ。どんな付加価値が付いたというのか。それとも、現在の現実の日本でも懸念されているハイパー・インフレが進行したか。


 1982年の3月、私は大学三回生の試験を無事終えて、一か月ほど、パチンコ店でアルバイトとして働いていたことがある。そのパチンコ屋は当時にしては珍しく、店内放送に演歌や軍歌を流さず、有線放送で流行歌を流していた。いまでも、松田聖子の「制服」や、強きを助け弱きをくじく「タケちゃんマン」の歌を、働きながら聴いていたのを覚えている。

 あるとき、イントロのキーボードが素敵な曲が流れて来て、「おっ」と思って聴いていたら、仲が良かった同い年のバイト仲間から「これ、誰の曲が分かるか」と訊かれた。彼も気に入っていたのだろう。知らんと答えると、「サザンだよ」という意外な言葉が返ってきた。


 その年の紅白歌合戦で、サザン・オールスターズはこの曲、「チャコの海岸物語」を歌った。これまで私が紅白で観た中で最高のパフォーマンスである。だたし、歌唱や演奏の出来具合ではなくて、桑田が三波春男の服装と歌いっぷりを真似したからだ。一緒に観ていた家族も大笑いで、たぶん日本中が楽しんだはずだ。NHK以外は。

 三波春男が「国民的大歌手」だったかどうかはともあれ、彼が歌った大阪万博のテーマソング「世界の国からこんにちは」は、その余りに「どシンプル」な歌詞にも拘わらず、世紀の大イベントの力も借りて大ヒットした。テレビで何度も何度も観たから、今でもはっきり覚えている。そして、2014年には後継者の春波夫がコイズミをうんざりさせている。


 コイズミは部屋から逃げた。迷い込んだのは、「DREAM GARDEN」という不気味な一画で、モアイ像やらピラミッドやらが林立し、コイズミが逃げ込んだ場所には巨大なキノコやら男性器と思しき奇怪なオブジェが無数にある。しかも、彼女は、他の逃亡者が偶然、すぐそばで高須たちに捕まり、麻酔薬を打たれて、「ともだちワールド」とやらに送致される現場まで見てしまった。


 万事休すと思いきや、忍び寄ってきた男に、いきなりデジカメで写真を撮られて更に驚くコイズミ。彼女は観察眼や記憶力に優れており、この男があのときのドリーム・クリーナーであり、また、風呂を覗いていた男であることを即座に見抜いている。

 おかえり、ヨシツネ。これまで、ユキジがちょっとだけ出てくるだけだった2014年は、オッチョとヨシツネの登場以降、いわば20世紀少年列伝ともいうべき構成となり、それぞれの活躍が描かれて、第12巻や第22巻に収斂していくことになる。ところで、ヨシツネは赤塚不二雄のファンらしい。特に「天才バカボン」が好きなようだな。どこかで少年時代の彼が「サンセイのハンタイ」と言っていたし、ここでは「レレレのレ〜」とごまかしている。


(この稿おわり)


近所で見つけた看板です(2012年1月2日撮影)