おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

目撃者ブリトニー     (20世紀少年 第192回)

 第5巻から第7巻は、歌舞伎町での殺人場面が多いので何かと物騒です。第6巻の冒頭は、ビールの空き箱に身を隠していたニューハーフのブリトニーさんが、後日、蝶野刑事が死体を見て吐くことになる中国人の銃殺現場を目撃するところから始まる。

 法王来日を控えて警備が厳しくなり、珍宝楼も普段どんな客層なのか見当がつくが、警察がウロウロしているため開店休業状態。そこに来客かと思いきや、制服警官の巡回連絡であった。カンナは彼が常連客であることに気付くのだが、まさかこの男が、その殺人の犯人とは思いもよらず、まして自分を監視しているとは知る由もない。


 そこに入ってきたのが蝶野刑事。二人の警察官はにこやかに挨拶を交わす。間もなく銃で弾丸を交わす仲になるのだが。チョーチョの用件はブリトニーさんの捜索であった。カンナは機嫌が悪くて、「また悪いことをしていない人を、逮捕しようとしているでしょ」と言い放っている。やはりケンヂの指名手配には、恨み骨髄に徹しているのだ。

 金を払わぬ人間ばかり来るから珍さんはもっと機嫌が悪くて、包丁を振り上げて刑事を追いだし、手の空いているカンナにブリトニー探しを命じている。ツケがたまっているらしい。マライアさんといいブリトニーさんといい、払いが悪いな。二人の仕事も開店休業なのか? でも珍店長は、本当は地域住民に優しいのだな。


 マライア・キャリーが颯爽と登場したころ、私はまだ洋楽(古いかな)を聴いていたので、彼女の歌声は知っているのだが、ブリトニー・スピアーズとなると顔すら知らない。ともあれ、ニューハーフの「ブリちゃん」はダンサー志望だそうで、彼女の練習場である倉庫まで、マライアさんはカンナを連れていく。

 声を掛けても返答がないが、床に転がっていた食べ掛けのカロリー・ゼリー「とん汁味」(2014年には、そんな代物が売れているのかい)はブリちゃんの好物であった。二人が捜し出してみると、ブリトニーさんはヒゲぼうぼうで、震えながら隠れていた。


 彼女は殺人の目撃者になってしまった路地に入る前に看板持ち(店の名は「制服☆道場」。詳細不明)のおじさんと挨拶をしていた。そのおじさんが警察に届けたため、蝶野刑事たちがブリトニーさんを探しているのだ。

 カンナはなぜか嫌がる彼女(彼?)を、歌舞伎町警察署に引きずっていくのだが、そこでブリトニーは殺人犯にして警官である鼻横にホクロのある男をまた見てしまった。

 ただし、彼は本署の所属ではなく、歌舞伎東交番に勤務している。警官の制服を着ていたと言う目撃証拠を基に、蝶野刑事がこの交番を捜査するのだが、ショットガンも使われていないとのことで、ベテランのおまわりさんに追い払われ、ちょうど帰ってきた鼻ホクロとも摺れ違ってしまう。祖父の栄光は遥か彼方にある。


 カンナのほうが、よほど役に立っている。再び倉庫にこもったブリトニーに、珍さんの店から出前と称して麺類を届けてあげたり、山形のおばあちゃんの家にかくまう約束をしてくれたり、ブリトニーの父の形見である髭剃りを、その自宅まで取りにいったりとしている。御尊父は血の大みそかに死んだ。カンナの怒りと悲しみは深まるばかり。

 ブリトニーさんのアパートから髭剃りを持ち出すとき、カンナは張っていた蝶野刑事に見つかってしまう。しかし、蝶野刑事は見逃してくれたのだが、何故なのだろう? このときカンナに「どうせ、あんたもグルなんでしょ」と言われて、身の潔白を証明したかったのか? それとも惚れたか? 単に張っていたのがカンナではなかったからか。


 ともあれ、去り際にカンナは重要な情報を彼にもたらす。中国人殺しの犯人は、「交番のホクロの巡査」だと。しかし、これが事態を壮絶に悪化させるとは、超能力少女カンナも予知できなかった。

 ここから先、物語は同時進行で、カンナたちの動きと、もう一つ、別の題材を交互に描き出す。すなわち、「20世紀少年」の劇中劇の最高傑作、海ほたるからの大脱走


(この稿おわり)



一番街商店街があったと思われる地域のラーメン店。○龍も七龍もなかったが、風龍ならあった。
(2011年12月1日撮影)