おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

見張り塔からずっと (20世紀少年 第562回)

 第17集第8話の「最果ての警察官」とは、万博の開幕日以来の登場となる蝶野刑事である。いや、彼はかつてのような私服の刑事ではなく制服姿であり、職場の警察官たちから蝶野巡査長と呼ばれている。どうやら荒野の一本道を封鎖している検問所に勤務しているらしい。

 蝶野巡査長は、第5巻第8話で歌舞伎町警察署が法王来日のため特別警戒月間に突入したときに開催された会議で、アクビをして署長さんらしき幹部に叱られているのだが(理由は昨日、徹夜だったという)、ここでもそれを上回る大欠伸をしている。蝶野巡査長と大声をかけられて焦っているが、幸い後輩が交代にきたのであった。


 ここでの交代制勤務とは、検問所に設置された四ツ谷の見附みたいな木造の見張り塔における監視業務であるらしい。後輩の名はこの集の最後あたりに出てくるのだが、星巡査という。彼らの仕事は星巡査によると「北方検問所の警備」という重要な任務らしいのだが、蝶野巡査長によると異常なんか「あるわけねえだろ。」という閑職だそうで見解の相違がある。

 蝶野巡査長の独り言によれば、彼は2年前からここに勤務しているが、警戒中の道路からは人っ子一人来ていない。「死に絶えたんだよ、あっちの世界は」というのが諦め顔の巡査長の見立てであるが、星巡査は「宇宙人が必ず攻めてくる」という”ともだち”の予言を信じ、常時、厳戒態勢にあるらしい。まじめな人なのだ。


 蝶野巡査長の失敗暦は豊富である。ブリトニーさんを銃殺した鼻ホクロの警官を取り逃した。その前に珍さんの誤認逮捕もあったな。歌舞伎町教会で鼻ホクロの暴走を止められなかった。そして、万博会場では13番に逃げられた。

 また、これは彼の過失ではないが、ヤマちゃんおじさんに秘密を漏らし(組織人としては越権行為であろう)、御守りに発信器を仕掛けられもして、結果的にブリトニーさんの死を招いている。これだけそろって、よくまあ警察にとどまっていられるものだな。まだ伝説の刑事になる夢は捨てられないからだろうか。
 
 自転車に乗ろうとしながら、宇宙人なんて、いつからそんなものがいることに...と蝶野巡査長は独り言を語っている。”ともだち”を信じていないのは相変らずだ。それなのにその治世下で正義の味方の警察官。彼の心境は複雑であるにちがいない。


 歴史は繰り返す。嫌な音のサイレンが鳴り響き、「脱走者発見、発砲を許可する」という無線連絡。その脱走者とやらは、封鎖用のフェンスの下をくぐり抜けるという原始的な方法で脱出には成功したが、ごつい車で参上した芹沢司令官とやらに射殺されてしまった。見張り番の星巡査は震えて撃てなかった。蝶野巡査長は星君に「よせ」と言っているだけで上司には叱られ、脱走者を救うこともできなかった。

 脱走者はフェンス越しに撃たれているので、内側(東京側)から北方に逃げようとしたらしい。なぜ命を賭けてでも外に行きたかったのか不明であるが、人には人の事情があるのであり、憲法第22条にも国民の移動の自由や居住の自由が保障されているのに、問答無用で即刻銃殺とは、ここは東ドイツ北朝鮮か。まだまだ蝶野巡査長の苦悩は続く。



(この項おわり)




バルコニーにオリーブの実がなりました。 (2012年12月12日撮影)



 There must be some way out here.
 Said the joker to the thief.

 ここから抜け出す方法があるはずだ。
 ジョーカーは泥棒にそう言った。

   ”All Along the Watchtower” by Bob Dylan

























































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