おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

いま歌舞伎町の王者に燦然と  (第1027回)

 今年の春、新宿で起きた気の毒な出来事についてのニュースが二つあった。一つはゴールデン街の火災で、お店が何軒か焼けた。たまたま首都圏のTVニュースで火事の報道を観たのだが、焼失した店の店長さんが「立ち直れるかどうか」と悄然と話してみえた。その後、無事に再建なさっただろうか。

 もう一つは、映画「20世紀少年」でマライアさんの役を演じた前田健さんの訃報。新宿の路上で倒れて搬送されたが亡くなられた由。まだお若いのに。マライアさん、上手かったのに。ブリちゃんに優しかったのに。心よりご冥福をお祈りいたします。

 一方で嬉しいお知らせはカンナ役の平愛梨さん、ご成婚おめでとうございます。お相手が長友とは驚きだ。あの男は走るぜ。うちの新聞にカズが先日、書いていたもんね。長友があんなに走っているのに、自分もうかうかしていられないというようなことを。終盤にサイドバックが、あそこまで上がって来るのだ。それに今回は、このブログも彼女の出番というタイミングの良さ。


 映画「第2章」の本筋は、2015年、夜の東京の上空から始まる。映画独自の趣向で、飛行船が空を徘徊している。こういうものに執着すること自体、いかにも我らの同世代らしい。今でも東京で見かける。時おり拙宅から見えるスカイツリーの周囲をブンブンブンと飛んでいる。

 カメラが拡大フォーカスしたのは、ゴールデン街と似た風情の歌舞伎町(実際、地理的にも近い)の裏通り。魔の国際都市で銃撃戦をやらかしているのは、どうやらタイマフィアと中国マフィアらしい。それと同時並行なのか、銃声にまぎれての凶行か、中国人の若者が撃たれる現場を、ブリトニーさんの片目が目撃している。


 場面はこの路地裏で働くカンナのバイト先、中華料理店の「珍宝楼」に移る。店先から夜の街に身を乗り出して、カンナが銃声が聴こえてくる場所を見定めようとしている。スライド・ギターも聞こえる。店主の珍さんは、苦労人の小松政夫。よくぞ選んでくれた。「20世紀少年」は、彼の師匠、植木等抜きでは語れない。なんせ主題歌の北海道バージョンは、植木もパクッているのだ。

 今回の本ブログのタイトルに覚えがある人は、私とほぼ同年代で、そろそろお孫さんも生まれるかもしれないご年齢だろう。これは小松の親分がテレビで使っていたセリフの一部で、オリジナルは「歌舞伎町」ではなく「歌謡界」。映画では後にカンナが職場放棄して走り去ったあとで、お玉をマイクに擬して講談調に聴かせている。


 珍さんの「青椒牛肉絲、あがったよ」というカンナを呼ぶ声は漫画の出だしと同じ。チンジャオニューロースとカナが振ってある。豚肉ではなくて牛肉を使うと「ニュー」が入る。注文した男が、その上にご飯を乗せて食べ始め、平カンナが目を丸くして見ているが、これが非番の警察官であった。まさか犯行の直後に晩飯か?

 続く二皿は同一人物が一度に食べるらしく、すなわちマライアさんのテーブルまで一緒に運ばれた。すごい髪型と髪の色。衣装も個性的。これはどう見ても、マライア・キャリーより、アンドレ・ザ・ジャイアントに近い。食欲も同様であろう。原作では珍さんに「売れないニューハーフ」と呼ばれているのだが、何を売ってみえるのやら。


 映画では珍宝楼の出番も、第2章の序盤が最初で最後なのだが、コミックスでは遥か先の「21世紀少年」下巻に再登場する。”ともだち”が滅び、珍さんは「地球平和奪還記念」で半チャーハン10円という破格の大サービスをやっていたのだが、それも終わりという張り紙を出した途端にマライアさんが、またも地球の危機という凶報をもたらす。

 ご参考まで、珍宝楼で検索すると、シンガポールにある珍宝海鮮楼という店の中国語と英語のサイトが出てくる。マーライオンから、それほど遠くないところにある。あの辺りはずいぶん歩いたが、全く気付かなかったな。まだ20世紀だったし。それにしても、「20世紀少年」は食事のシーンが多い作品だ。

 さらば。モハメド・アリ。忘れないよ。




(この稿おわり)




でもステーキ・ハウスは出て来なかったような。
もっとも「ビリーの食堂」なら知っている。
ルート66を紀行中のケロヨン親子が立ち寄った。
ビリーの焼き鳥屋もあった。やっぱり多い。
(2016年5月25日撮影)


 Don't go trying some new fashion.
 Don't change the color of your hair.

     「素顔のままで」  ビリー・ジョエル







 魔法にかかった異国の夜の街 
 心に呪文を投げるの
 二人はぐれたとき それがチャンスと

  「ミ・アモーレ」 中森明菜

























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