おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

「警察なんて大っ嫌い」     (20世紀少年 第188回)

 第5巻の第9話「蝶野刑事」には、2人の重要なバイ・プレイヤーが初登場する。一人はタイトルどおり、蝶野刑事。あのチョーさんの孫なのだが、ショットガンで射殺された死体を見て吐いたり、ローマ法王警備ための重要な訓示の最中に欠伸をしたりで、上司や先輩に小馬鹿にされている。まだまだ先は長い。

 もう一人は、新宿カトリック教会のニタニ神父。彼は神の教えに基づき、ヤクザ者たちが「足を洗う」のも支援しているのだが、上記の死体は2日後に彼に会うはずの中国系マフィアだったという証人として登場する。さっそく腕まくりしてクリカラモンモンをお見せになり、その履歴の一部が明らかとなる。


 蝶野刑事が所属する歌舞伎町警察は、法王来日に向けて警戒を強化することになり、早速ガサ入れを始めたところ、麻薬は出るわ拳銃は出るわ女はいるわで大忙しとなる。ここでチョウチョこと蝶野刑事が、まずは不法滞在者の摘発に目を付けたのは間違いではなかったろう。

 しかし、ケンカの現場でたまたま目の前にいる珍宝楼の店主、例の珍さんが、明らかに就労中と見られる料理人の恰好をしていたのが運の尽きで、就労ビザを調べもせずに焦って先に手錠をかけてしまう。間の悪いことに、珍さんの雇い人であるカンナがそこにいた。


 カンナはラーメンを食べる際に箸を持つのも右手だし、バッグなどを運ぶ時も右手を使っているので、明らかに右利きである。しかし、珍さん不当逮捕の瞬間、蝶野刑事はカンナの右隣にいたため、彼女は左腕で殴るしかなかった。しかし腰の入った、体重の載った見事なフックが顔面に決まり、さすがの刑事さんも一発でダウンを取られている。利き腕ではなくて幸いであった。

 蝶野刑事: 「公務執行妨害!!」
 カンナ:  「警察なんて大っ嫌い!!」


 雇い主をかばって身代わりに連行されたカンナは、取調室でもこれと同じセリフを、目に涙をたたえて叫んでいる。なぜ、これほど警察を嫌うのだろうと、私も健康のため近所のプールで泳ぎながら考えた。

 第6巻の「登場少年紹介」では、「警察を憎んでいるのは、”血の大みそか”の真相を知っているから...!?」とある。確かに、当時から警察内部には”ともだち”の仲間が入りこんでいたし、そのことをカンナはケンヂ達から聞いていたに違いない。

 だが、それを言うなら、国会も自衛隊も税関も同様であり、警察ばかりが蛇蝎のごとく女子高生に嫌われる理由にはならないように思う。正義の味方たるべき警察が、血の大みそかにケンヂおじちゃんを救ってくれなかったのは確かであるとしても、包囲網を敷いていたのは自衛隊であり、それを使わなかったのは総理の責任である。


 これについても、これから先に新たな発見があるかもしれないが、とりあえず今の段階では、カンナの3歳のときの記憶がよほど辛いものであったと考えておこう。地下の秘密基地からケンヂたちを追放したのは機動隊であった。ケンヂを指名手配したのは警視庁だった。

 第5巻の46ページ目の上段には、ラーメン店の○龍から出てきたあとで、「右よし、左よし。OK、交番におまわりさん、いないよ。」という、いたいけな監視役カンナのセリフが出てくる。


 彼女にとって、ケンヂを追い詰め、見殺しにしたのは、”ともだち”という正体不明の悪党よりも、強権を発動する国家権力そのもの(警察はその象徴)であったに違いない。昨今、相次ぐ冤罪事件の被害者も、警察や検察に似たような感情を持っているに違いない。

 したがって、カンナの闘争も、かつてのケンヂや、これからのヨシツネのような、攻撃対象を”ともだち”や友民党に焦点を絞ったものではなく、体制側そのものという大掛かりな活動になっていく。こちらも、まだまだ先は長い。


(この稿おわり) (今日は 写真の次に、おまけつき)


ご近所の晩秋(2011年11月12日撮影)

 
 おまけ。昨夜、日本武道館で開催された「ジョン・レノン スーパー・ライヴ 2011」を観てきました。桑田佳佑氏(以下、畏敬の念をこめて、桑田と呼び捨て)が見事だったので、忘れないうちに印象を書き残します。

 彼は中盤に登場。演奏したのはビートルズでジョンが歌った7曲。ちょっと演奏順には自信が無いが、「She Loves You」、「You Can't Do That」、「I'm a Loser」、「I Should Have Known Better」、「I Feel Fine」、「It's Only Love」、「Slow down」。それから、「勝手にシンドバッド」のイントロ...。


 どれほど素敵だったかは、他の人がいろいろ書いてくれるだろう。ここでは中高年代表として、桑田がビートルズの来日公演の様子をよく覚えていて、あちこちにパロディーを仕掛けていたことを、お若い方々にお伝えしたい。

 まず言うまでも無いが、ビートルズは昨日のスーツ姿の桑田たちと同様、みんなお揃いの、きちんとした身なりで武道館のあのステージに立っている。まだ、あの髪形も健在であった。


 桑田が抱えていたエレクトリック・ギターは、おそらく去年まで「さいたまスーパーアリーナ」の「ジョン・レノン ミュージアム」に展示されていた(私も実見しました)、ジョンが愛用したエピフォンのモデルかと思う。

 桑田本来の姿勢なのか、ジョンの真似なのか分からないのだが、左脚を少し前に出して、踏ん張ってギター弾きながら歌っていたのは、ジョン・レノン独特のポーズでもあった。両脚そろえて立つポールとジョージとは、脚元をみただけで違いが分かる。


 曲の紹介の際に、桑田がしきりに英語で語っていた「The next song we'd like to do is...」という前口上は、あのバンドのスポークス・マンだった、ポール・マッカトニーの口癖である。

 また、桑田が「It's Only Love」の前に、アルバム「HELP!」からという紹介のあとで何度も「LP」、「LP」と繰り返していたが、あれは実際、45年前に、その場でジョン・レノンが口にした言葉である。

 当時の日本のファンは、ジョンの「HELP!」という単語を聞きとって歓声を挙げてしまったので、彼はそれが曲名ではなくて、アルバム名(LPというのは媒体の名。死語かな。)だということを強調したかったようだが、その気持ちが客席に届いたかどうかは不明。
 

 ちなみに、「She Loves You」のあとで、「ドリフターズです」と自己紹介しているのは単なるギャグではなく、本物のザ・ドリフターズザ・ビートルズの日本公演の前座を務めている。

 また、お喋りの中で、ビートルズ来日の際のテレビ放送において、到着した彼らの車が首都高を走る際に、「Mr. Moonlight」が流れたと語っていた件、私は寝ていたから観ていないのだが、大勢のオールド・ファンの語り草となっている。

 その歌の冒頭の歌詞どおり、66年夏のジョン・レノンは、「You came to me one summer night.」であったのだ。その歌詞はネットでも読むことができる。読んだら、この曲を聴いてみてください。


(今度こそ終わり)



日本武道館の入口にて(2011年12月8日撮影)