おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

新曲の感想 その1  (20世紀少年 第231回)

 表題の新曲とは「ボブ・レノン」のことだが、今回のタイトルの「感想その1」という歯切れの悪さは、この曲が大事な役割を果たすのが後半なので、その時にもっときちんとした感想を書けたらいいなと思うから(つまり、また先延ばしにしたいから)である。

 第4巻の152ページ目において、バンコクから来てくれたオッチョに対してケンヂが、格闘技の習得に失敗したため、得意の路上ライブで「この事実をとにかく伝えよう」という作戦に切り替えた話をしている。しかし「もろに歌詞にしたら、”ともだち”の息がかかった警察にパクられちまう」はずだ。


 このため彼は、「奴らにわからないように、わかる奴だけわかるように、誰かこの歌の意味わかってくれ」という思いを込めて、歌を作り続け、歌い続けたのだ。それでも、2000年時点では、「結果は昔、バンドやってた頃と同じだ。てんで聴いちゃくれねえ」という有り様だという。

 未来においては、そうでもない。ケンヂに予知能力がないので仕方がない。しかし過去については、相変わらずケンヂの記憶力は頼りない。それなりに流行りのバンドだったことは、後に「21世紀少年」上巻において、ユキジの切ない回想場面となって出てくる。

 もっとも、ジョン・レノンが、「われわれを見たかったら、コンサートに来てくれ。われわれの音楽を聴きたい人は、レコードを買うように」と嘆いたように、初期ビートルズのファンと同様、騒いでいるだけで聴いていないというのも有り得るが。


 ともあれ、「ボブ・レノン」も、「わかる奴だけわかるように」という厳しい制限の下で書かれたものに違いない。曲名は、「ボブ・ディランジョン・レノンのパクリ」なので、「ボブ・レノン」に決まった。私はコード進行に詳しくないので、これだけでこの曲がこの二人の曲想に似ているかどうか分からない。

 これでも私は十代のころ、二三年はアコースティック・ギターの練習をしたのだが、てんで上達しちゃくれねえ。やがて諦め、左手の指先はすぐにプヨプヨに戻った。「ボブ・レノン」にはEコードが多いので、日本のフォークソング風ではなかろうなという推測ぐらいしかできない。

 
 では、肝心の歌詞はどうか。最初のほうに「カレー」が出てくる。最初の読書において反射的に、ケンヂと漢字違いながら同姓同名の遠藤賢司「カレーライス」を思い出した私は、最も年配の読者層に属するに違いない。この二つの歌が相互に関連しているかどうかは、「カレーライス」の歌詞を忘れたので何とも言えない。しかし、「ボブ・レノン」はカレーの歌ではなかろうな。

 「地球の上に夜が来る」というのは、これに続く歌詞が、50年後もこうしてキミと一緒にいるとか、いつまでもこんな毎日が続きますように、という将来への前向きなメッセージであることと比較すると、ちょいと興味深い。世の中、これから暗くなるという、あるいは、もう手遅れになりつつあって願うしかないという、黙示録のようなものか。


 血の大みそかで最初に犠牲になったバイクの二人組は、ケンヂの歌を「ひねくれた」と評しているが、「来年のことをいうと鬼が笑うというなら 笑いたいだけ笑わせとけばいい」といった箇所を指してのことだろうか。サビの部分の「邪魔させない。誰にもとめる権利はない。」というのが、この歌の伝えたい核心部分であることは疑いないが、その切実な訴えが、二人組に劇的に伝わったようには見えない。

 それでも、二人は「いいすよ」と言ってくれたのだ。「わかる奴には分かる」とまでは行かなかったかもしれないが、分かるためには、もっともっと時代が悪くなるまで待たなければならなかっただけだ。蝶野刑事が、このときカンナに「ボブ・レノン」を聴かせてもらって良かった。そうでなければ、ケンヂは第18巻の第6話で、警官に射殺されていたかもしれない。


 最後におまけ。なぜか「Twitter」の私のフォロワーの中に、アメリカ合衆国オハイオ州クリーブランド市在住の白人女性がいる。彼女のつぶやきで知ったのだが、クリーブランドには「The Rock and Roll Hall of Fame and Museum」という「名所」があるらしい。

 そのウェブ・サイトによると、どうやらNPO法人が運営しているらしい。「ロック&ロール殿堂博物館」とでも訳せばよいであろうか。1988年の「殿堂入り」に、ザ・ビートルズボブ・ディランが含まれている。

 20年ほど前、アメリカに滞在していたころ、「ローリング・ストーン」誌で読んだ記事によると、何はともあれ、ボブ・ディランジョン・レノンは別格であると書いてあったのを覚えている。その両者からパクるとは、ケンヂの度胸も大したものだ。


(この稿おわり)



イカの干物づくり。美味しそう。
(2011年11月26日撮影)