おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

七色キッドの製造工場    (20世紀少年 第124回)

 オッチョと弟子が辿り着いた七色キッドの工場は、入口にマシンガンを持った警備が立ち、鉄条網が張り巡らされているという物々しさだが、オッチョは一撃で警備員を殴り倒して乱入している。元工場長の放火犯によれば、ここは一度入ったら二度と出ていけないのだという。ホテル・カリフォルニアのようだな。

 倉庫には麻袋のようなものが積み上げられていて、壁には、ともだちマークの旗が飾られている。そのデザイナーは「とんだ思い付きだったな」と感想を述べてから、袋の中身を床にぶちまけて火を点けた。その前に彼は、自分に銃を向けている工場関係者たちに、撃てばこの可燃性の強い粉に引火するぞと脅している。

 なぜ可燃性が強いと分かるのであろうか。かまをかけたか? 元工場長から聞いたのか? 浦沢直樹氏の出世作「パイナップル・アーミー」には、主人公のジェド豪士が追い詰められて、爆薬替りに小麦粉の粉じんをまき散らして火を放ち、窮地を脱する場面があったが、同じ発想である。


 はたして工場は大爆発を起こすが、中に3人取り残されたと聞いて、元工場長はオッチョが停めるのも聞かず、救出に向かって続きの爆発に巻き込まれた。彼は仲間を焼き殺した罪滅ぼしをしたかったのだ。これで許そう。オッチョは最初の弟子を失った。

 彼だけではなくオッチョの周囲では、わずかの間に警察官が死に、メイが殺され、そのすべてにおいて、ともだちが関与している不条理な死だ。よくぞこれで精神が持つな。オッチョの心の痛手に比べれば、ドンキーの通夜で集まった20世紀少年の様子など、のんびりしたものだったと言わなければなるまい。


 兎も角ようやくこれで、ともだちの資金源でもあり、仲間に飲ませて恐怖を煽るという小道具でもあった七色キッドの製造施設は破壊された。しかし、やや手遅れの感がある。すでに大みそかに向けた準備は整っていたのだから。ともあれ、「その前に、やらなきゃならないこと」は、犠牲者を出しつつ成功裏に終わった。最強の兵士が日本に帰るときがきた。


(この稿おわり)



近所には古い寺が数多くあります。これは経王寺。彰義隊戦争の弾痕が残る。
(2011年7月30日撮影)