おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

ひみつ集会のはじまり (20世紀少年 第347回)

 第12巻第7話は「アルコールランプの下」というタイトルで、ショーグンと角田氏が夜の理科室に踏み込むと、窓から差し込む街灯りを背にして立つ男のシルエットが浮かんでいる。「誰だ」とオッチョは言った。

 相手はそれに応えず、1971年の夏、理科室に入ってきて水槽のスイッチを入れたドンキーの話を始めた。そのまま帰ればばよいのに、人の気配を察したドンキーはアルコールランプに点火して、「見ないほうがいいものを見た」のだという。そして、「よく来たね。落合君...だよね?」と山根は言った。


 以前、サダキヨ先生の登場場面において、最後に出て来た重要人物と書いた覚えがあるが、山根を失念していました。自ら灯したアルコールランプに照らされたに彼の顔には少年時代の面影が残っているが、オッチョの変貌ぶりは桁が違う。一応、「だよね?」と確かめたくなるのも致し方なかろう。なお、漫画家角田氏は山根の眼中にない模様。

 オッチョはもちろん相手が山根であることを先刻ご承知の様子。彼が持っているメモを見て、山根はさすが落合君と褒めているから、やっぱり昔から「できる子」として認めていたのだな。4年生のとき山根が連絡方法を伝えた時点で、すでにこのメモは本に挟まれていたのだ。そうでなければ、メモ持参で理科室には来ない。


 大昔のこととはいえ自分で呼んでおきながら、山根はこの通知文について「君らにとっては、見つけられないほうがよかったかもしれないが」と無責任なことを言っている。これからここで起きるであろう悶着に、巻き込まれる可能性を示唆しているものと思われる。山根のもったいぶった発言の連続に呆れたか、オッチョは相手にせず、ドンキーが何を見たのだと山根に問う。

 「”ともだちは、この理科室で生まれた。いや、死んだというべきか...」と山根は言った。この夜の山根の物の言いようは、全般にこんな調子で回りくどく、科学者らしい明晰さに欠ける。実際、後半の「死んだというべきか」は、本人が後で”ともだち”相手に言い直している。前半の「理科室で生まれた」については、第14巻や第16巻のところで考えようと思う。


 オッチョはこれも軽く受け流して、”ともだち”はこの集会のメンバーなんだなと念を押す。山根は肯定し、さらに必ず来ると答えて二人を驚かせた。間もなくご対面とは。山根いわく、目的は「僕を殺しに」、理由は「あのことを内緒にしたいから」。そのとき廊下から足音が聞こえてきた。角田氏は、”ともだち”が来るのではと怯えている。

 しかしオッチョは山根を問い詰めるのを止めない。次は彼と”ともだち”の関係を問う。答えの前半は、大福堂製薬を疑い始めたころからオッチョが考えていたとおりのものだったろう。すなわち、山根はウィルスとワクチンの研究開発を、”ともだち”の下でひたすら続けてきたのだ。


 ところが、「2003年、キリコさんが現れるまでは」と山根が言い出したからオッチョは驚いた。ケンヂの姉の謎めいた話は、歌舞伎町教会で13番から聞かされたばかりなのに、またここで変な学者が彼女の名を出してきたのだ。ここでオッチョが山根から聴き出した話の内容は、第13巻でオッチョがカンナに語っているので、それまで待とう。

 キリコもずっと行方不明だったと山根は言う。そして彼女に会ったそのときから怖くて怖くて、とにかく”ともだち”から逃げ出したくなり、今度は自分も行方不明になった。ところが、”ともだち”は山根の所在を突き止めて、念押しの招待状を送り届けてきたのだという。


 「ひみつの集会の通知 おぼえているかい」と書かれている。字がものすごく下手だなあ。かつてキリコに出した手紙がワープロ打ちだったのは、余りの字の下手さ加減に内心忸怩たるものがあり、無礼を承知の上で、目的からしてやむを得なかったのであろう。

 「逃げ切れないなら、逃げる場所がないなら、いっそ...」と山根が言いかけた時、ガタンという音がして理科室の入り口に姿を現したのは、おなじみ、忍者ハットリくんのお面を付けた男であった。

 私の知る限り、全編において”ともだち”のスーツとネクタイはこの柄である。文字通りの一張羅か。最初に万丈目と西岡に吊り上げてもらったときから、最後に円盤事故で滅びるまで、ひたすらこの恰好とはファッションを楽しもうという意欲も能力もないのだな。オッチョも忙しい。この日2回目となる質問、「誰だ」と訊いた。その返答が来る前に、読者は正体を知る。


(この稿おわり)



私のすきな山吹(2012年4月22日撮影)



山吹と言えば太田道灌。日暮里駅前にて。(2012年4月24日撮影)
「ななへやへはなはさけともやまふきのみのひとつたになきそあやしき」
(後拾遺集 巻一 春上)