おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

かっこつけしい (20世紀少年 第757回)

 第22集第6話には4ページだけ、カンナたちの活動場面が出てくる。大型トラック何台かで万博会場に乗り込んできたのだ。門前でカンナは「爆破班!!」と呼びつけている。相変わらず気の荒い娘であった。いろいろ背負っている人生だからなあ。門だけ壊して他は壊すなと命令内容も厳しい。そして「お祭り広場」まで突入し、一挙に万博会場を占拠する作戦である。

 この「お祭り広場」は前にも書いたが本物の大阪万博にもあった。ただし、後刻ケンヂたちが演奏したときに観客が詰めかけた野外の会場とは異なり、「お祭り広場」とは太陽の塔と周囲の屋根に覆われた95ページ目上段の絵に描かれている場所である。”ともだち”が「復活」した場所でもある。ここが万博会場ど真ん中だ。ところが爆破班の出番はなくて、門はするすると開いてしまって拍子抜け。


 東北と北関東でのケンヂもそうだったが、遠藤一族が近寄ると何らかの事情により、開かずの扉が自動ドアに変わるというお家芸がある。いぶかるカンナだが、中から”ともだち”マークの帽子をかぶった警備員らしき男が出てきて、「春波夫さんのコンサートの資材搬入ですね」と意外なことを言う。春さんが手をまわしてくれたのであった。

 春さんはもうチャーリーになっていて現場におり、満員確実、史上最大のコンサートだと意気込んでいる。お隣のビリーも準備OKの様子。「さあ、準備がない。準備開始だ!」と春さんは言った。何日目なのかはっきりわからないが、”ともだち”が明言した締切り一週間まであとわずか。


 時間がないことはお面大王も分かっているようで、子供たちを残して先を急いだ。彼の指さす先を見てケロヨンは「あの杭は?」と問うた。お面大王曰く「ある男が登っていった」のだそうだ。大王は続いて、外に出たがる者は多いが、中に入ろうとするものは滅多にいないと東京の人気の悪さを説明し、さらにその男は杭が抜けて下に落ちても、何度も何度も挑戦し続けたのだという。

 男がついに壁の向こうに行ったと聞いて、気の早いケロヨンはさっそく息子にロープの手配を命じている。他方でマルオは、その様子を見ていたのかと訊いた。お面大王は物陰からずっと見ていたらしい。そして妙なことを言った。「会わせる顔ないもん、あいつに」と。知り合いだったのだ。


 お面大王の問わず語りが続く。「あんなに努力家だと思わなかったよ。子供の頃は小器用で、かっこつけしいなだけだと思ってたよ」という。この発言は、お面大王もマルオとケロヨンも、「かっこつけしい」も子供のころ顔見知りでなければ出てこないだろう。たぶん別のクラスだったケロヨンはすぐに思い浮かばなかったようだが、マルオとお面大王は一緒に遠足に行って握り飯を食っている写真が残っていた。

 「それ、オッチョのことか」とマルオは言った。ということはマルオも、オッチョが「子供の頃は小器用で、かっこつけしいなだけだ」と思っていたのだな。「これやったの、オッチョだろう」と畳みかけるとお面大王は「うん」と言った。オッチョの呼び名を知る幼馴染。「お前はいったい」とケロヨンは急展開についていけていないが、ロープが届いたので即座に上り始めるとはさすが江戸っ子。


 先鋒ケロヨンの偵察結果によると、壁の上から見ても警備隊はいない。続いて息子が登る。「次、おまえ登れ」とマルオはお面大王に命じた。順番はこれで正しい。マルオの巨体で杭が折れては困る。まあ、ロープはあるけれど。かつてドンキーのロープ+鼻水タオルで救助されたマルオであった。

 一人でも仲間が必要だとマルオは説く。「仲間に入れてくれるの?」とお面大王は訊いた。その昔、彼が本当に仲間になりたかったのはグッチーらのサッカー・チームでもノブオの学級新聞編集室でもなく、秘密基地の遊び仲間だったのだ。ようやく、先方からお誘いがあったのである。ちなみに、私の地方では「いいかっこしい」と呼んでいた。かなり手厳しい悪口である。


 「おまえ、サダキヨだろ」とマルオが確かめた。色付きメガネの下の目が優しい。お面大王は黙って下を向いてしばし無言であったが、ロープをつたって壁を登攀しながら「うん」とサダキヨは答えた。重要人物が土壇場で、物語に戻ってきたのである。サダキヨは気が弱い。その人生、いろんな相手に振り回されてきた。最後に彼を変えたのはオッチョとマルオ、残り物には福があった。

 2014年、桃源ホームの屋上で別れを告げた翌日、サダキヨが運転していたらしき車は炎上事故を起こして、運転手と思われる中年男性も焼死したと報じられた。「どう考えても、これはサダキヨだ」とヨシツネは断言したが、見事に間違いだったのだ。サダキヨがいかにして地下に潜伏したか定かではない。ともあれ、すでに第3集から容疑者呼ばわりされてきた彼の最後の活躍が始まる。



(この稿おわり)



ちょっとピンぼけ。合歓の花。 (2013年6月2日撮影)



































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