おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

キリコの人生 その3     (20世紀少年 第69回)

 鳴浜町におけるキリコの消息は、1995年ごろと、2002年の2回に分かれて描かれている。後者はいずれ詳しく書くとして、前者について押さえておくと、キリコはいつここに来たのか分からないが、1994年に遠藤酒店で諸星さんと別れているのだから、そのあとだろう。

 そして、鳴浜町での研究内容は、第11巻でカンナが発見している。「全身から出血した猿」の写真、「遠藤チーム培養成功」と添え書きのあるキリコほか研究者たちのスナップ写真。ウィルスはもちろん、ワクチンの開発も進んでいたはずだ。だからこそ、キリコの治療により、死者3名ほどで済んだのだ。


 この病院はその後、間もなく閉鎖されてしまった。こんな事故を起こしたのだから、当然だろう。では、キリコはどこへ行ったのか。住いの場所は分からないが、フクベエと一緒に暮らしていたのはないかと思う。第20巻にキリコが昔の話を、ケロヨンとマルオに語って聞かせる場面がある。

 その中で、84ページ目では、キリコは夫フクベエに対して、「あなた、いつでもサークルに出かけるっていうけど」と問いただしている。また、マルオたちに、サークル活動が小さかった頃、フクベエは「誰か或る人に、よく電話してたわ」とも話している。いずれも同居していてこそ、できる体験であろう。


 他方、このころのキリコの職場については、よく分からない。山根が2003年まで働いていた富士山麓の研究所かもしれない。少なくとも1995年からカンナの出産ごろまでのある期間、一緒に働いていたのではないか。共同研究者として。

 鳴浜町の遠藤チームの写真に山根の顔はないが、彼の証言によれば山根とキリコは共同研究でウィルスとワクチンの製造競争のようなことをしていたのだ。第13巻、2003年の山根とキリコの会話にそれが出て来る。


 そして間もなくキリコはカンナを身ごもり、1996年か97年に出産。そのすぐ後で、フクベエのサークル活動の実態を目の当たりにして、カンナを抱いたまま家を出て、実家に赤ん坊を預け、警察に訴えたが、あいにく担当官はヤマさんだったため握りつぶされた。

 それからは地下に潜伏したのか、その後のキリコの動向は分からない。2000年の後に「血の大みそか」と呼ばれる日に、キリコがフクベエに面会を求めに行くシーンが第20巻第5話に出て来る。

 しかし、よりによって対応に出てきたのは諸星さんを殺した長髪の優男。行く手を阻まれたうえに、テレビの実況中継で巨大ロボットの出現が報じられて、手遅れと知る。


 次にキリコが現れるのは上述のとおり2002年だが、その場面はまだ先なので後述しよう。それよりも、この1997年の段階で、キリコがなぜ、ともだちの仲間入りをすることになったのかを考えたい。

 舞台はもう一度、実家に残されたキリコの部屋に戻る。第2巻の132ページ、ケンヂが諸星さんの手紙とは別の封筒を引き出しの奥に見つける場面だ。


(この稿おわり)


近くの諏方神社の木立。真夏でも木陰は涼しい。(2011年7月30日撮影)