おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

キリコの人生 その2     (20世紀少年 第68回)

 第2巻の第7話「姉貴の引き出し」は、キリコの部屋に残された机の引き出しを、ケンヂが開けている場面から始まる。128ページ目、背中で気持ち良さそうに寝ているカンナに、問わず語りに語るのケンヂのセリフは、「そういえばここに手紙が入ってた」。

 続いて、「行方知れずになった時、何か手掛かりはないかって、読んじまったんだ」とあるから、キリコはやはり家族に行き先も告げずに家出したようだ。手紙はケンヂの説明によると、「一流企業のエリート」からだという。「こいつは姉貴に結婚を申し込んでいるんだ」とのことだ。


 お母ちゃんによると、エリートの名前は諸星さん。私の世代にとって、諸星といえばジャニーズではなく、モロボシ・ダンであろう。眼鏡をかけるだけでウルトラセブンに変身するという特異体質の男。先日、彼を演じた俳優さんが、ウルトラセブンの本物のお面を盗まれるという被害に遭われた。早く戻ると良いが。

 ケンヂが読みあげる諸星さんからの手紙の内容とは、プロポーズを断られたのはショックだが、父親を亡くして実家を守らないといけないというキリコの気持ちは良く分かると伝えつつ、「貴方の前から消えてゆく」(本当にそうなってしまうのだ)が、幸せになってくださいとある。


 この手紙の前に、キリコと諸星さんが会ったときの様子が、第19巻の151ページ目から描かれている。諸星さんは「この間の話、考えてくれたかな」と言っているので、この日の話し合いはプロポーズの後日のことだろう。ただし、諸星さんは「ぼくらの将来の話は置いといて」と自ら話をそらしている。

 そして、キリコに、仕事がら、たくさんの医療を見てきたと語っているから、医療関連の企業にお勤めであったろうか。「現場はあなたのような人を求めている」と仕事がらみでも誘おうと必死の努力をしているが、キリコは、資格がない、私学に進学する金もない、店も放置できないと前回書いたような話をして席を立ってしまう。


 この会話でいったん諦めて、上記の手紙を郵送した諸星さんだが、諦めきれなかったのか、第2巻の第9話「後の男」153ページ目で、再びキリコの前に姿を表す。1994年とあるから、キリコがアフリカでレジデントを修了した翌年。彼女は遠藤酒店の前で打ち水をしている。

 諸星さんは明後日、クアラルンプールに転勤になることを話し、飛行機のチケットと現地の住所をキリコに渡して、「ずっと待っていますから」と最後の言葉を残して去る。

 この一連のシーンにおいて、諸星さんに対するキリコの態度があまりに、つれないことから、私はてっきり彼の片思いだと思っていたのだが、お母ちゃんがケンヂに語ったところによると、「けっこう、いいところまでいった」らしい。もっとも、二人の様子からして男と女の深い付き合いというより、婚約話が進んでいたという親の認識のような感じがする。


 第11巻の152パージ目、モンちゃんメモに残された「鳴浜町」の「オデオン座」を訪ねたカンナは、母キリコがこの町に住んでいて、1995年にその町で全身から出血する病気で3人ほど亡くなったものの、「その女医さん」が治療してくれて助かったという地元の老人の話を聞く。

 キリコはこの町の「友楼会」(トゥモロー会と老人は呼んだ)という、ともだちマークの付いた建物にある細菌研究所で、研究生活に入ったらしい。医師免許がなければ開業できないが、研究なら可能な訳だ。「鳴浜町」という地名は、ネットで探すと愛知県にあるらしいが、そこのことかどうかは分からない。問題は何が起きたのかだ。


(この稿おわり)


古代の日本人は、セミの抜け殻のことを空蝉と書いて、うつせみと読んだ。
漢字も読みも美しい。私の好きな言葉の一つ。源氏を振った人妻の名でもある。
(2011年7月30日撮影)