おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

姉ちゃんのギター     (20世紀少年 第65回)

 ケンヂの父上の顔は、第2巻第8話の冒頭に出て来るのだが、早くもご本人の葬式のシーンである。死因不明。ケンヂの容貌とそっくり(顔の全てのパーツにおいて)である。幸い、キリコは父母どちらにも似なかった模様。

 よりによって葬儀の場で、ケンヂはキリコに対し、「こんな時に言うのも」と断ってはいるものの、バンドを続けたいので店は継がないと言っている。しかも、バンドを始めた原因は姉ちゃんにもあると述べ、キリコに「何をブツブツ言ってんの」と一蹴され、「店のことなら、このお姉ちゃんに任せときな」と相手にされない。

 確かに、ケンヂのバンド活動と、キリコによる弟の支援には因果関係があるのだが、キリコに何らかの責めがあるわけではない。既に彼女が店を継ぐ決意をしていなかったら、蹴り殺されても仕方ない無神経な発言であろう。


 楽器店の前で、2万6千円という「天文学的値段」のエレクトリック・ギターに垂涎しているケンヂの姿を、キリコは何度も見かけたらしい。高校の先輩でギターを何台も持っている「嫌な奴」とデートまでしてやって、貰い受けたギターを弟に贈っている。しかも楽器店の店頭のものと、全く同一のモデルを選んでいる。並大抵のご厚情ではない。

 しかし、ケンヂの念頭に、姉への感謝の気持ちが浮かぶ暇はない。なんせ、「これさえあれば無敵」というマシンガンが手に入ったのだ。呆れ騒ぐ両親をものともせず、ケンヂは家で一番大きいに違いないガラス窓のカーテンを開けて、ホウキでもクラシック・ギターでもない、念願の武器を構えて立って勇ましい。


 小学生のころ秘密基地でオッチョに「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」を聞かされたときは、どこがいいのかさっぱり分からなかったロックも、中学3年になるとケンヂもすっかり夢中だ(ケンヂ中3で、キリコは女子高生らしい制服を着ている。年齢差は、やはり2歳か3歳ぐらいだろう)。

 彼が聴いているのは、このブログでもすでに触れた、ローリング・ストーンズTレックス。あるいはジミ・ヘンドリクスクリーデンス・クリアウォーター・リバイバルジョン・レノンボブ・ディランの名も出て来るが、ここでは長くなるので、いずれ書きます。


 さて、少し前の130ページ目に描かれている、バンド時代のケンヂが弾いているギターは、この姉ちゃんのギターとは違う機種で、おそらく第1巻に出て来る学生時代、スパイダーさんと会話を交わしながら、爪弾いているギターと同じものだ。

 とはいえ、姉ちゃんのギターを処分した訳でもない。それはそれ、大切な宝物としてコンビニに商売替えしても、実家に仕舞っておいたのだ。この歴史的文化遺産は、しかし残念なことに、ともだち一味の夜襲に遭って、焼き打ちにされた。

 のちに、ともだち暦3年、彼は「ギター状の武器」を携えて戻ってくるのだが、その際はアコースティック・ギターを用いている。行く先々に殆ど電源がないので、アンプラグドしか選びようがなかったのだろう。とはいえ、クラシックでは山口に笑われるし。


(この稿おわり)


何となく大味のジャスミン。(2011年7月30日撮影)


























































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