おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

不信任の決議  (第1249回)

 前回の続きです。第54条の改正案を再掲する。今回は、その全条項案を記載します。

【改正草案】

衆議院の解散と衆議院議員の総選挙、特別国会及び参議院の緊急集会)
第五十四条 衆議院の解散は、内閣総理大臣が決定する。
2 衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙を行い、その選挙の日から三十日以内に、特別国会が召集されなければならない。
3 衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。ただし、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。
4 前項ただし書の緊急集会において採られた措置は、臨時のものであって、次の国会開会の後十日以内に、衆議院の同意がない場合には、その効力を失う。


 前回も書いたように、上記のうち第二項から第四項までは、今の憲法と実質同じ。この二〜四を読めば、衆議院の解散・不在が、いかに例外的な事態であるか明白である。それが起きたときに、何をしなければならないかも詳しく書かれている。

 そういう憲法を持ちながら、現憲法に規定された四年という期間を務めあげたのが一回限りとは、「金返せ」の事態ではないのだろうか。本件に関する憲法の条項を改めて読む。実はまだ、順番が来ていない条項もあるため、自分のルールに反するが、それらも挙げる。


【現行憲法

第七条 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
三 衆議院を解散すること。
 (前後略)

第四十一条 国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。

第六十七条 内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。この指名は、他のすべての案件に先だつて、これを行ふ。

第六十九条 内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。


 前回の私は、恣意的であることを強く批判しておりますので、これらの条項の抜き出し方が、恣意的であると思われる方や、重要な条文が漏れているとお考えの方は、ぜひご指摘願います。考え直しますので。

 前回において、「誰が衆議院の解散を決定する権限を有するのか」について明記されていないと書いた。一方、決定権ではなく、解散をする権限は明記されている。第7条にあるとおり、天皇。国事行為である。ただし、本文にあるように「内閣の助言と承認により」という前提条件がある。


 内閣しか登場しない(立法府や司法府は関与しない)ということは、天皇の国事行為は、行政権に関するものに限定されているということだ。言い切りましたが、違いますか? 

 第41条にあるとおり、国会は国権の最高機関である。三権は分立しているが、それぞれは憲法における格式上、全くの平等ではない。前回の三権分立の図のとおり、三角形の頂点は立法府である。国民が選んだからだ。行政府と司法府は、その見張り役・指南役の位置にある。


 しかし、改正草案は、内閣総理大臣衆議院の解散を決定する権限があるというが、以上からして、おかしくないか。続きもございます。第67条によれば、内閣総理大臣は国会が議決するのだ。その総理が衆議院を解散するというのは、社長が株主総会を解散するのと同じ構造のようにみえるがいかが。

 それに「内閣」ならまだしも、「内閣総理大臣」ときた。実質同じという強引な主張もある。総理が他の大臣を罷免できるからで(第68条)、郵政解散でもコイズミがやった。そして農相を兼務して解散にもっていった。


 つまり、理論的には反対する全閣僚を罷免して全部を兼務し、衆議院を解散し得る。緊急事態条項も実現したら、他の法律も変えたい放題だ。よほど立派な総理でないと、危なくて仕方がないと思うのは、本当に私だけなのでしょうか。こういうリスクから国民を守るのが保守本道というものでしょう。

 当方の結論は明確で、第69条に規定された内閣不信任案が決議されたときに限り、内閣は衆議院を解散し得る。選良たる議員の判断と、専門家集団たる官僚組織のトップ陣の判断の、どちらが適切なのか、重要事項に限り例外的措置として、第69条に基づき衆院解散があり得る。

 こういう議決は、総理総裁の体制が安定していては無理で、ねじれ国会でしか実現しないだろう。いや、衆議院だけの決議となると、派閥抗争か、よほどの不祥事か。でも前にも述べたように、衆議院は解散し過ぎるのだ。勝手な国会運営をしないよう、手綱を引き締めるには良い機会です。


 理屈は以上。政治の世界だから運用が大切だ。野党におかれては、芸のない不信任案の乱発は控えられたい。意見が違うというレベルは与野党なら当然のことで信任の可否の問題ではない。初めから可決される見込みが全くない議案で大切な国会の時間とエネルギーを消費しないでほしい。

 さて。手元に記録がないので記憶に頼る。アメリカがベトナム戦争から手を引いた理由は、いろいろ複雑なものがあるのだろうが、決定的な出来事は戦争継続のための国家予算案を議会が否決したためだ。この記憶が間違っていたとしても、この制度は存在意義が高い。

 しかるに、例えば軍事予算が僅差で否決されたが、一部の元気な国民が提灯行列をつくって戦争賛成と言っているようだからという理由で、解散総選挙をやらかされたらどうなるか。歴代総理のご尊顔と、チャーチルの言葉でも思い浮かべながら、じっくり考えてみるだけの価値はある。




(おわり)





小石川植物園  (2017年5月4日撮影)














































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