おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

三分の二  (第1250回)

 こうして逐条で読んでみるのも時間の無駄ではなかったなと思うことの一つに、それまで「三分の二以上」が必要という条件がある定めは、憲法改正の第96条しか知らなかったのだが、これから何回か出てくる。

 先取りして例示だけすると、第55条の議員の資格喪失のこと、第57条の秘密会、第58条の議員の懲罰、第59条の衆議院の優越。いずれも、国民が選んだ議員の権限と国民の「知る権利」に関わる重要事項なので要件が厳しいのだ。これら以外は多数決(過半数の勝ち)であると、次回の第56条にある。

 これを憲法改正の発議において過半数に減らしたいというのは相当、挑戦的な提案だ。それについては未だ先のこととして、今回は第55条と第58条を話題にします。順序を入れ替えるのは、そうした方が自分の頭の整理がしやすいだけで、他意は無いし、特に問題はないと思う。


【現行憲法

第五十五条 両議院は、各々その議員の資格に関する争訟を裁判する。但し、議員の議席を失はせるには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。

第五十八条 両議院は、各々その議長その他の役員を選任する。
2 両議院は、各々その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定め、又、院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる。但し、議員を除名するには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。

【改正草案】

(議員の資格審査)
第五十五条 両議院は、各々その議員の資格に関し争いがあるときは、これについて審査し、議決する。ただし、議員の議席を失わせるには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。

(役員の選任並びに議院規則及び懲罰)
第五十八条 両議院は、各々その議長その他の役員を選任する。
2 両議院は、各々その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定め、並びに院内の秩序を乱した議員を懲罰することができる。ただし、議員を除名するには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。

 私たちが日常用語で「資格」という言葉を使うとき、例えば運転免許のように厳密な年齢制限がある場合や国家資格など白黒はっきりつくものと、「優しくなければ生きていく資格がない」といった評価を含むものがある。

 私見ながら、第55章にある「資格」とは前者のほうの厳密なもので、第58条で定める「秩序」に関わるものが後者に当たるのだろう。いずれも、「出席議員の三分の二以上」が賛成したら、第55条では欠格、第58条では懲罰が待っている。


 後者は、正確には第58条の第2項であり、同条の第1項は、議長ほか役員を互選する。復習のため、三権の長のうち残る二つのポストについては、第6条に明記されている。国会だけが、自らの長を決定・任命する権限がある。自分で手を挙げて「立法府の長です」と言っても無意味です。

第六条 天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。
2 天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。 


 第55条にある「争訟」という聞き慣れない言葉は、広辞苑(第六版)によると「訴訟を起こして争うこと」となるが、ここは司法府の規定ではないので、もっと広く「訴えごと」という意味なのだろう。

 今の憲法でこれに続く「裁判」も、司法府の裁判ではなく、弾劾裁判と同様、立法府でも法の範囲内で裁判をすることがあるということだ。しかし、改正草案では何かお気に召さないことがあるとみえて、「議決」に変えている。全く同じことなら、文句はないです。


 自民党の改正草案が、今の憲法にない言葉を加えているのが、同じく第55条の「審査」だ。争訟には主語(主体)がないから、誰が問題提起しても良いとも読めるが、この審査は明確に、審査は国会でやると断言している。

 例えば、年齢要件や国籍は、戸籍や住民基本台帳を管理している地方自治体が調べるべきだし、実は犯罪の容疑でお取り調べ中となれば警察や検察(つまり行政府)、あるいは裁判所の管轄ではあるまいか。

 どうするおつもりでしょう。与党が仕切るぜという意味ですか。これが私の誤解だとしても、そういう疑念を抱かせるような小細工が多すぎるから、こういうことになる。





(おわり)





なぜか昔からタンポポが好きでございます。
花そのものより、名前が気に入っているのかもしれない。
(2017年5月4日撮影)


Dandelion don't tell no lies. - The Rolling Stones















































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