湾岸戦争でクウェートに一兆円を超える資金援助をしたのに、アメリカの新聞に載った同国の支援国に対する感謝状には、日本国の名が無かった。これは、通常、金は出しても血を流さなかったからだと解説されている。クウェートがそう公式発表したという記録の存在は、寡聞にして知らない。
このお金は国庫から出ているので、当然ながら会計検査院の検査を受けており、その記録は会計検査院のオフィシャル・サイトに掲載されている。そのうちネットから消えてなくなりそうな気もするので、印刷しました。
http://report.jbaudit.go.jp/org/h04/1992-h04-0309-0.htm
ご覧のとおり、圧倒的な割合で、この資金はアメリカ合衆国が「受益」しており、直接クウェートが受領した金額は、恐ろしく小さい。特に、最大金額の第3回・第4回の交換公文に基づく明細を見ると、大半がアメリカの「輸送費」に消えている。しかも、アメリカに渡った金には、使途不明金があるという怖い噂もある。
日本語の国連広報センターというサイトで、PKO関係のPDF資料を開けようとしても重いのか開かない。国連本部の英語のサイトならば数字等のデータを入手できる。先ずは2016年8月時点での国別の派兵者数。一目瞭然で、上位は南アジア及びアフリカ大陸の諸国である。
http://www.un.org/en/peacekeeping/contributors/2016/aug16_1.pdf (後記:リンク切れ)
同じサイトより、お次は国別のPKO関係の国連拠出金。一般の拠出金とは別枠らしい。2016年の予算額ベースで、トップ10はG7でお馴染みの先進国が並んでいる。アメリカが1位、中国に次いで日本は3位。兵站は大切ですし、お金もかかるのです。すでに大変な貢献度だと主張すべきです、総理。
http://www.un.org/en/peacekeeping/operations/financing.shtml (後記:リンク切れ)
ということで、いくら金を出しても人が死なないので国際的に全く評価されない日本という説は、どうやら極めて根拠が薄弱なように思う。もうこれで止めましょうか? 楽しい話題ではないが、せっかくなので、あと一つ、カナダの話題にお付き合いいただきたい。
もう何年か前に新聞か雑誌で、その時点でPKOにおける国別の通算死者数のリストを見た。そのころの一位はカナダだった。今も上位である。だが、上記の拠出金予算額でも分かるように、今は余り積極的ではないらしい。
外務省のサイトによると、「現在,国連PKOは,様々な課題を抱えています。ここ15年間で派遣要員数が約2万人から約10万人へと約5倍に増加し,PKO予算も年間12億ドルから75億ドルへと約6倍に増加しました」。あまりにPKOが増えて、平和主義のカナダは考えを変えた模様である。カナダの国際平和協調は、歴史が古い。
これを書いている日の前日(2016年11月25日)、キューバの革命の英雄、フィデル・カストロが亡くなった。カストロの人柄や事績は良く知らない。数少ない関係資料として、手元にあるチェ・ゲバラ著「革命戦争の日日」(三好徹訳、集英社文庫)の解説に、キューバを去りゆくゲバラが、盟友カストロに宛てた置手紙の和訳が収録されている。
手紙というのは、いわば共作だ。出した人の人柄も、出す相手への気持ちも出る。この胸を打つ書簡の中で、ゲバラは「カリブの危機の輝かしくも苦しい日日に、きみのかたわらにあって、わが国民の一員であることに誇りを感じたものだ。あのころのきみより卓れて輝かしい政治家は、めったにいるものではあるまい」と書いている。なお、「卓れて」は、すぐれて。
この「カリブの危機」というのは、我が国では通常、「キューバ危機」という。1962年、米ソ両軍は、核戦争の準備に入った。これを外交により直前で食い止めたケネディは翌年死亡、フルシチョフは翌々年に失脚、映画にもなった「13 daiys」という記録を残した弟のロバートも、数年後に兄ジョンの後を追った。
危機が頂点に達した一因は、アメリカが日本で試して成功した経済制裁を、革命後のキューバに発動したためだ。キューバのお金持ち等は、米国に十万人単位で亡命した。その多くはフロリダ州に住む。今年のアメリカ大統領選では、激戦地のフロリダを共和党が制した。カストロが亡くなった日、トランプは「残忍な独裁者が死んだ」とお里の知れる発言をしたと報道されている。
この残忍なアメリカと異なり、カナダはキューバ危機の間も経済制裁のお誘いもに乗らず、その後もキューバとの国交を暖め続けている。そしてキューバとくれば、もう一人。共産主義のイデオロギーは、表向き、「不労所得」と断ずるプロ野球を認めていないのは周知のとおりだが、長嶋茂雄には、そんなもの関係ないのであった。
そのカナダが、うんざりするのも分かるなと思うのは、国連の資料によると、今や世界各地の十数地域でPKOを実施中である。欧米の敵が、戦争を諦めてテロ戦術に出てしまい、アイゼンハワーが言うところの軍産共同体は経営が悪化し、軍拡マーケティングの結果、PKOを増やそうということになった(推測)。
これまでのところ、自衛隊は設立以来、幸いなことに日本国が侵略を受けていないため、武力行使をしていない。このため結果的に、ずっと武器弾薬の消費組織となっている。これは私の作文ではなく、自衛隊の元幹部がそう言ったというニュースをテレビか新聞で知り、なるほどなあと思った。平和であることのコストである。訓練なら無駄遣いではない。
でも、それだけでは満足できない人たちが、南スーダンに自衛隊を派遣させている。同国と日本の間に、敵対関係など一かけらもないと認識しているが、万が一、撃ち合いになったら、死ぬのは南スーダン人か自衛隊員だ。もう少し、PKOと「駆け付け警護」について整理したいことがあるので、次回以降に続きます。
(おわり)
Our problems are man-made — therefore, they can be solved by man.
我々が抱える問題は、人が作り出したものだ。しからば、人の手で解決できる。 (1963年、ジョン・F・ケネディ大統領)
有明の三日月 (2016年1月25日撮影)
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