おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

1月16日 国内初  (第1227回)

今年一月の前半、WHOのように、のんびりしていた私がようやく「大丈夫か?」と思い始めたのが、前回の続きで1月16日。国内初の新型肺炎の患者が発生したという報道が一斉に新聞、テレビ、ネットに流れたときです。すでにその前には、中国国内で武漢以外にも患者が出ていたし、14日には同国政府が人から人に感染する可能性があると発信し始めていた。

私を含め労働安全衛生の仕事や研究に携わっている人にはおなじみの「ハインリッヒの法則」というものがあります。「1:29:300」と表されているもので、一件の災害が起きたとき、既に・同時に、29件の「危ないところだった」という軽い事故があり、さらに300件の事故とは呼べないまでも、それにつながりかねない出来事がある。


上掲のサイトでも分かるように、労災の未然防止・再発防止の話題の中によく出てくるもので、おおざっぱな例え話ではなく、研究結果に基づくもので広く認知されている。労災事故と感染症は別物ですが、一人の病人が出たら、そのままでは済みそうもないというのは、私たちの経験則として実感が伴います。エイズのときも、そうだった。

コロナウイルスHIVのように、潜伏期間があるものは、感染してから発病するまでにウイルスが増殖するまでに時間差がありますから、自覚がないと他者を感染させてしまうおそれがあります。主にこのせいで、これを書いている今、われわれは「自粛」して家に閉じこもっているわけです。すぐ発病するのではなくて、運び人になってしまうのを防ぐ。


さて、国内の最初の報告は、厚生労働省の報道発表の資料に残っています。今回もリンク切れに備えて概要のみ期すと、1月14日に医療機関から保健所に対して、少し前まで武漢に滞在していた人が肺炎と診断されたという連絡が行った。

このお方は、武漢滞在中の1月3日から発熱があり、1月6日に日本に帰国して受診したとのことです。報告は保健所から国立感染症研究所に送られ、検査の結果、「昨日(1月15日)20時45分頃に新型コロナウイルス陽性の結果が得られ」、新型コロナウイルスに関連した肺炎の患者の発生が、国内で確認された初めての事例となった。


この翌日の厚生労働省によるプレス・リリースが早速、報道機関により配信されて、私の目と耳にまで届きました。当日の朝日新聞をみると、当人は当初から発生源ではないかと疑われていた海鮮市場には近寄っていないとのことだったので、「ヒトからヒト」は現実のおそれとなりました。

まことにタイミングが悪い。私が若かったころは「旧正月」と呼ばれていた中国の「春節」は2020年の場合、1月24日(金)から30日(木)の7連休でした。正確には24日が日本でいう大晦日、25日が元旦に当たります。拙宅は成田空港からの特急が停まる駅に近く、春節など休みの時期でなくても外国人さんの乗り換えが多い。そして特に春節は、そばの上野公園など、中国語が満開です。


また、推測ながら、武漢などに長期滞在中の駐在者や留学生、その家族など、日本人も一時帰国を予定していた人も大勢いらしたでありましょう。この時期に感染者が増え、2月に患者が増えると、来る春の花見の季節、同じころ学校や会社で式典や異動が無数にある。

私は正直なところ、肺炎なら2月末ぐらいには収まるだろうと周囲にも申しておりました。そのころには、だんだんと暖かくなってくるし、特に長年住んでいる東京は(視野が狭いですが)、太平洋岸を低気圧が通過する時期で、雨やなごり雪が降るから湿度も上がる。肺炎といえば寒い季節の代表選手のように思っていましたから、楽観していました。


朝日新聞のネット版は見やすい形で、古い記事も主なものは一覧で残っています。翌1月17日、「新型肺炎、中国で2人目が死亡 タイでも感染確認2例目」。18日、「新型肺炎武漢以外でも感染疑いか 上海と深圳に計3人」。19日、「新型肺炎、中国・武漢の感染者17人増 現在も3人重症」。20日、「新型肺炎、ヒトからヒト感染確認 習氏は押さえ込み指示」。

習近平総書記の「押さえ込み指示」とは、「断固として蔓延を抑え込め」という趣旨だったそうですが、その手段は示されていない。後に分かりますが、都市封鎖でした。日本では、1月22日の同紙によると、「新型肺炎、ウイルス潜伏は7日前後 日本は水際作戦」ということで、空港に設置された質問票とサーモグラフィに触れている。


春節が始まった1月24日の記事をみると、世界保健機関(WHO)は「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の宣言を見送ったそうで、一方、厚生労働省への取材によれば、「37度程度の発熱では、空港の検疫でひっかけることは難しい」。そして、日本ではもう二例目の報告が出た。

そして春節の期間中、武漢は事実上の封鎖状態にあると判断した日本政府は、在留邦人の帰国支援のため、中国にチャーター機を飛ばす決定を下す。健康管理と気分転換のため、外国人旅行者が多い上野公園近辺の散歩は、私にとって殆んど日課とも呼べるもので、この間も平気で歩いていました。このときは単に、三密ではなかったのが幸いしたらしい。


(おわり)



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不忍池にて  (2020年1月30日撮影)





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