おじさんの雑記帳 

「20世紀少年」の感想文そのほか 寺本匡俊 1960年生 東京在住

1月30日 PHEIC  (第1228回)

あまり聞かない言葉ですが、「PHEIC」というのはWHO(世界保健機構)の用語であり、” Public Health Emergency of International Concern”の略語。2005年に適用範囲が拡大されたもので、きっかけはWHO憲章で定められている「国際保健規則」(International Health Regulations ,IHR)というルール・ブックが2005年に改訂されたときに変更された、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」という一番重度の宣言です。

2005年というのは、SARSの流行の少し後です。それまでPHEICは黄熱病、コレラ、ペストの三種の病が発生したとき、その国はWHOに通知し、WHOが各国に情報提供を行うというのが大意であったらしい。加盟国に対する拘束力はない。これは2005年時点のWHOのサイトにも、厚生労働省の資料にもある。変更後の新規適用の第一号は、記憶に新しい2009年の新型インフルエンザです。文明とともに、はやり病が変質した。


その後も増えて5番目に追加されたのが、2018-2019年のコンゴ民主共和国北キブ州でのエボラ出血熱の流行。そして今般、新型コロナウイルス感染症が2020年1月30日に、WHOによって追加された。当日付けのタイム紙が、当日付けのWHOのTwitterも貼り付けて報道している。英語を読むのも疲れるので、BBC放送の日本語版サイトを拝見します。

この時点で「新型ウイルスによる死者は、中国で少なくとも213人に上っている。WHOによると、中国以外での感染は、18カ国で計98人の感染者が確認されている。中国以外での死者はいない。感染者のほとんどは、感染が発生した中国・武漢市に渡航した人となっている。人から人への感染は、ドイツ、日本、ヴェトナム、アメリカで計8例が確認されている」という状況だった。


今回の事態において、しばしばWHO(特にその事務局長)と中国が、何やら怪しげな癒着の関係にあるのではないかという憶測が飛んでいます。私にはそんな裏舞台は分からないし、調べてまで知ろうとも思わない。それにしても、前段落のような被害状況に至っており、すでに二次感染する病気であることが明白になっていた段階で、拘束力のない注意喚起でよろしかったのでしょうか。結局パンデミックの宣言は3月まで待つことになりました。

WHOといえば、安全衛生の仕事をしている私でも、資料作成や研修講師などの業務を務めるとき頻繁にその名を出すような、保健医療の分野では、世界で最高の権威をもつ組織です。この宣言があった1月30日は、今年の春節7連休の最後の日でした。これを受けて、中国は春節の連休を延長するという措置に出た。


しかし日本では、一部の報道機関に記録が残っているほか、「PHEIC」の件は殆んど報道されなかったと思います。このころの日本は国内の感染者が増え始め(1月30日に二桁になった)、さらに武漢に飛ばしている邦人救出チャーター機の話題で大忙しでした。近頃よく聞く「前代未聞」の出来事だった。

見落としでなければ、厚生労働省のプレス・リリースにも残っていない。何かと後手後手と責められている政府ですが、この時点でさえ、春分の日の三連休直前に幾つかの都道府県で出た不要不急の外出自粛要請ぐらい出してもよいくらいの材料は、上記の通り出そろっていたと思いますが如何でしょう。暢気に構えていた私が言えた義理ではないのだが言う。


思うに、WHOにもっとも敏感に反応したのは、アメリカのトランプ大統領だったかもしれません。このあと彼の言うことは、周知のとおりでコロコロ変わるので以下ご参考まで、1月31日から早くも水際の心配をし始め、2月2日には事実上の中国人の入国禁止措置まで主張し始めている。すなわち「過去2週間以内に中国湖北省に滞在していた米国民は最大14日間にわたり強制的に隔離される」と当時の記録にあります。

それに対して、WHOが「今はまだ複数地域による局地的なエピデミックの段階であり、パンデミックではない」と明言したという報道が、2月4日付のCNN放送のサイトにある。すでに、この時点でアジアはもちろん、欧州と北米の複数の国々で感染の報告が出ています。WHOの判断の適否は、追って世界中の研究者や行政官により評価されるべきだと思います。今はそれどころではないでしょうけれども。



(おわり)



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クリスマス・ローズ  (2020年1月30日撮影)












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